こんにちは、ななおです。
前回はこちら、23話:長野さんから。
目次はこちらから。
揉め事
長野さんとの出会いを得る一方で、私としげきの関係は悪化していた。
私たちの所属する剣道部は、夏の合宿で次の代に幹部代を引き継ぐことになっている。だから、夏が近づくころには先輩たちは次の代の幹部について考え始めるわけで、そうした先輩の雰囲気は次の代である私達も敏感に察するようになっていた。
そんな中で、私は部の組織の在り方や、先輩たち(主にしげき)の人選に対して不満を持っていた。
というのも、私たちの部はほぼ全ての仕事を部長一人が担っていて、組織というものがあってないようなものだった。つまり剣道部そのものが部長一人の肩に乗っかっているような、かなり際どい存在の仕方をしていたのだ。
そしてそれに加え、先輩たちはそんな部の在り方に疑問を抱くこともせず、また次の代の意見も聞かずに次の部長を選ぼうとしていた。
しげきはサヤカとりり子という子を部長候補として挙げていた。確かに、2人とも真面目に部活に参加していたから、彼女たちの人柄について文句を言うつもりはなかった。
けれどサヤカは入部当初から「幹部をするつもりはないし、やりたくもない」と、同期にも先輩にも公言しているような子だった。つまり同期である私からみると、部長へのやる気そのものが欠けているように見えたのだ。
そしてもう一人のりり子は、人一倍責任感が強い分、全てを一人で抱え込む癖がある上に、要領の良いタイプでもなかった。だから、部長として剣道部の重荷を背負わせるには向いていないように思えた。
体育会系の部活だし、基本的に先輩の言うことが絶対なのは分かっている。けれど、その先輩の人選を受けて実際に一年間活動をするのは私たちの代なのだから、「仕方がない」と簡単に受け入れてしまうこともできなかった。
そこで、先輩たちが部長を決めてしまう前に、私から「意見書」という形でしげきに長文のメールを送ることにした。次の代である私だからこそ分かる視点もあると思ったのだ。内容は主に以下のようなものだった。
・「部長をやりたくない」というサヤカを推薦するのは賛成できないこと
・今は部長の負担があまりにも大きすぎて、組織としてバランスを欠いていること
・りり子を部長にするならば、部長と副部長の役割をしっかり分けて、部長の負担を軽減すること
・必要であれば自分が幹部に参加すること
いくらしげきとは友達のように付き合える仲だからといって、後輩が先輩の人事に口出しすることには、やはり罪悪感も感じたし、とてつもなく緊張もした。
また自分が幹部に名乗り出ることも出しゃばりのようで躊躇したが、私もサヤカやりり子と同じように3段を所有しているし、毎回部活にも参加していたから、最低限の条件はクリアしているはずだった。だから、今後の部のことを考えたら、全ての可能性を考慮に入れるべきだと思っての意見だった。
けれどしげきから返ってきた返事はそっけないものだった。
『幹部は俺たちの代が指名するもので、立候補は受け付けない。部長の役割に関しては少し検討する』
そんな内容が書かれてていた。
その返信を読んで、しげきは私の意見を受け入れる気がほとんどないどころか、大して真剣に受け止めていないことが分かった。
そしてそれは、「お前は幹部としてふさわしくない」というだけでなく、「お前の意見を真面目に聞く価値はない」と言われたも同然だった。
そして私は、部活においてしげきが私の活動を評価していないということを悟ったのだった。
だから、私たちの代の幹部決めが始まったころから、私はしげきに対して不満を持つようになっていただけでなく、それまでの私の部活での在り方を否定されたような気持ちにもなっており、かなりショックも受けていた。
そしてこの頃から、少しずつ私たちの関係に亀裂が入るようになっていた。
つづく(25話:嫌い)
どんな部活でも幹部決めでは揉め事がついてまわりますよね(^^;)
私たちの代はそれぞれの想いが交錯し(ここでは省略しましたが、サヤカやりり子もそれぞれ思うことがあったようです)、なかなか大変なことになってしまったのでした。
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