草食系男子との3年間 51話:ありえない偶然 ~ななお篇~

 

こんにちは、ななおです。

前回はこちら、50話:しげきの異変から。

目次はこちらから。

 

ありえない偶然

 

 

『場所、どこにする?てか、何するんだっけ?(笑)』

 

しげきから積極的にデートに関するラインがくる。やはりこのしげきはどこか変だ。もしかしたら、今まで私が知っているあのしげきとは別人なのかもしれない。

そう訝しがりながらも、正直に返事をする。

 

『なんも決めてない(笑)とりあえず便利だし、新宿でいいかな?適当にご飯食べて、適当にうろつく予定』

 

自分からデートに誘ったくせに、本当になにも予定が決まっていなかった。でもそれでもいいのだ。今回はしげきと2人で遊び、自分のしげきに対する気持ちを確認することが目的なのだから。

ラインでやり取りをしながらも、どこか冷静な自分が淡淡と考える。嬉しくないなんてことは絶対にないが、けれどもその気持ちを押さえるべきだという自分の方が強かった。簡単に浮かれるべきじゃないと思ったのもそうだろうし、やはりマサトに惹かれていたからというのもそうだろう。

 

 

私としげきは新宿二丁目をぶらぶらと歩いていた。

6時ごろに駅で待ち合わせをして、適当なレストランに入って食事をし、また適当に歩いてお洒落なカフェでデザートを食べ、腹ごなしに散歩をしていた。

私たち2人がデートらしいデートをするのは本当に2年以上ぶりだったけれど、私たちはいつもと同じように自然体で、一緒にいて気楽だった。確かに、しげきがいつもよりも私のことを気にかけてくれることが多いことには気が付いていたけれど、あえて意識はしないようにしていた。

今日一番確認すべきことはしげきの気持ちではなく、自分のしげきに対する気持ちなのだから、余計なことは考えない方がいいのだ。

 

「おぉ、すげえ、パトカー停まってんじゃん」

 

しげきの声にふと目線を上げると、一つ先の十字路の角に白いパトカーが一台、ライトをピカピカと光らせながら停まっている。

 

「あぁ、あれじゃない?盛り上がってる人たちがいるから、見張ってるのかも」

 

細めの道路を挟んでパトカーの反対側に、小さなバーで宴会をしている集団が目に入る。その決して大きくはないバーはガラス張りになっていて、中の人口密度の高さがよく見えた。人々は狭い中で窮屈そうに、けれど楽しそうにグラスを交わす。おそらくパーティーの二次会か何かだろう。

そのバーの入り口には派手なカラフルな衣装とかつらに身を包み、ピンヒールを履いたゲイが一人いて、彼は姿勢よく店の入り口から出てくると、長い足を見せつけながらまるでモデルのように道路の方にウォーキングをし、またモデルのようにターンをして店の入り口までウォーキングをした。
おそらくはパーティーの盛り上げ役なのであろう彼は何度かウォーキングを繰り返し、周囲の視線が自分に集まっているのを楽しんでいるようだ。灰色のアスファルトとビルに囲まれた舞台は、鮮やかなピンクや黄色をまとって堂々たる歩みを魅せる彼がその場の主役となるには十分だった。

 

「すごい、二丁目って感じ」

 

ぼそりと呟くと、隣でしげきが小さく笑う。

 

「すげえな、あの人」

 

「貫禄あるね、背も高いし」

 

彼のステージを邪魔しないように、けれども通り道なので仕方なく、そのバーの横をするりと通り過ぎようとしたとき、私は思わず目を見張った。そして、二度見した。いや、三度見した。

けれどそこに書かれていた文字は、二度目も三度目も、変わることはなかった。

 

“ SHIGEKI&NANAO  wedding party ”

 

そのバーの入り口には、そう書かれた立て看板が置かれていた。

思わず息をするのを忘れて、その看板に見入った。自分の目を見ることはできないが、まさに、瞳孔が開くという言葉のお手本を示していただろう。

 

2年半片想いを続け、そして2年ぶりのデートをしているしげきとななおの目の前で、今まさに、SHIGEKIさんとNANAOさんが、ウェディングパーティーをしているという、この状況。
ただの偶然、そう言われれば確かにそうだ。けれど偶然にしてはできすぎている。こんな偶然が、なぜ今私たちの目の前に現れたのか?いや、現れる必要があったのか?

そんなことが頭を駆け巡る一方で、とっさに、「しげきに知られてはいけない」、ということも思った。それが恥ずかしさだったのか、運命というものへの抗いだったのか、自分でもよく分からない。

 

いずれにしても私はしげきにそのことを話すでもなく、歩みを止めるでもなく、こびりついた視線を引きはがすようにして歩き続けたのだった。

 

つづく(52話:相反する気持ち

作り話でしょ?と思われるかもしれませんが、この偶然は本当に本当にあったんです・・・付き合ってからこのことを初めてしげちゃんに教えた時、「鳥肌立った」と言われたくらい、不思議な出来事でした。

 

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