こんにちは、ななおです。
前回はこちら、58話:初めての体験から。
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落ち着く人
家に帰ってからも私はマサトとの時間を思い返していた。
マサトが私に対してそこまでの愛情を持っていないことは分かっていたし、今日の様子を見てもそれは明らかだった。けれど、これからは私に対して何の興味も抱いてもらえなくなるのかもしれないと思うと、やはり少し寂しい気持ちもした。
しかしその一方で、自分自身の心理を振り返ってみても、そこにマサトへの愛情は見られないように思った。
私は彼に言われるままに作業をこなし、行為の最中にもそんな自分を客観的に分析することすらしていた。そしてマサトがしてくれたことに対してすら、気持ちがいいとも心地よいとも思わず、淡々と受け入れていただけだった。
ということは、私とマサトの関係性ってなんだったんだろう?これからマサトとどう接したらいいんだろう?というか、あんなに好みでセクシーだと感じた相手との行為に何も思わなかった私は、何か変なのではないだろうか?
わずかな経験値だけをもとにぐるぐると考えていると、私は自分のことがどんどんわからなくなっていった。そして完全に分からなくなった私は、しげきに救いを求めた。私にとってしげきは大好きな人であると同時に、なんでも言える親友のような存在でもあった。
『賢者タイムなう』
まずは冗談めかした言い方から始める。
『どうした?』
普通に帰ってきた返事にほっとしながら、素直に心情を吐露する。
『ホテル行ってきたわ。相手のことは満足させられたけど、自分は全然だめだった、何も感じられなかった』
しげきからは、マサトとの関係性やマサトのことを好きなのかどうかなどを聞かれた。それは私の疑問を直接解消してくれるものではなかったけれど、しげきといつも通りのやり取りをしているだけで心が落ち着いてくるような気がした。
そして誰かに話しを聞いて欲しかった私は、一通りのモヤモヤをしげきに語った。
マサトが私にもう興味を持ってくれないかもしれないこと、初めての体験は興奮するようなものではなかったこと、ずっと平常心だった私はもしかしたら何か変なのかもしれないこと。
するとしげきは、
『なら、女の子と付き合ってみればいいじゃん』
と返事をよこした。その返事に笑ってしまった私は、いつもの調子を取り戻した。
『しげきはさ、私に対してそういうことしたいと思ったことある?w』
『ないよ、てか、基本女友達にそういうことは思わない』
『えー、じゃあさ、しげきは好きな人いないの』
ほんのわずかに、気持ちを込めたメッセージを送ってみる。そろそろ私のことを「好き」だと言ってくれたりしないだろうか?
『好きな人って俺よく分かんないんだよな。その人と付き合うために努力できないというか面倒になっちゃうし、彼女を一番に考えられないんだろうな』
「なんだ」、わずかに心の奥でそんな声が聞こえた。けれど、しげきがそう言うのなら仕方がない。こんな状況にはもう慣れっこだし、やっぱりしげきはしげきのままだということだ。
『それは、本気で好きになったことがないからじゃないの?』
『どうだろうね、頑張らなきゃって思わなければいいのかな。あと、たぶん俺はチキンだ』
最後の「チキンだ」が何を示すのかよく分からなかった私は、その部分はスルーすることにした。しげきが恋愛に奥手な草食系男子なんてことはとっくに知っているし、今更何を言うのだろうとしか思わなかったのだ。
『必要以上に頑張らなくても居心地よくいられる人と長く続くんだろうねー。フラれるのはみんな怖いもんだよw』
『そっか、そうだよな』
いつのまにかしげきの恋愛話にすり替わっていたものの、私は完全に落ち着きを取り戻した。そしてしげきの言葉に対しても、わずかな落胆を感じはしたものの、激しくショックを受けることもなく受け止めることができた。
しげきは恋愛を必要としていないし、付き合いたいほど好きな相手もいないらしい。一方私はもうマサトと会えなくなるかもしれないけれど、しげきとはそれなりに楽しくやれているし、とりあえず現状に不満はない。
ベストではないかもしれないけれど今は今で楽しいし、思いがけず襲ってきたモヤモヤも時間が解決してくれるかもしれない、なんとなくそう思えたのだった。
しげきはやはり、私を私らしくさせてくれる天才だった。
つづく(60話:タイムカプセル)
好きな人に他の人とホテルに行った話をする…かなりリスキーですが、この時の私は、これが草食系男子の心を揺らすことになるんじゃないかな?と、そんなことを思っていました(笑)結果的にこれは作戦としてはかなり成功だったようです。
それから「チキンだ」という発言は、しげきのわずかなアピールだったのだろうなと、今となっては思います。相変わらず分かりにくすぎですが(笑)
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私は冴えないアニメオタクでしたが、現在は一途で誠実な彼氏がいます。彼はイケメンの部類ですが、浮気の心配や不誠実さは皆無で、徹底的に一途な人です。
どのくらい一途かというと、週末ななおに会いに来るために新幹線の回数券を買ってくれているくらいです。(現在は、東京―京都間での遠距離恋愛をしています)
そんなことを言うと、ななおは元々見た目が良かったんでしょとか、オタクといいながら実は結構モテてたんでしょ、と思うかもしれません。
しかし実際は、20歳くらいまでメイクやファッションのことは何も知らず、好きだった人に「ブス」などと言われるような人間でした。さらにいうと、彼氏とは今でこそ恋人同士ですが、そうなる前に2度振られた経験もあります。
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