草食系男子との3年間②:ウワサの先輩 ~ななお篇~

 

こんにちは、ななおです!

今回は第一話:不思議な出会いに続いて、第二話です。

目次はこちらから。

ゆっくりとお楽しみください♪

 

 

ウワサの先輩

「こんなに女子が入ってくれるとは思わなかったよ」

 

藤枝さんと、ほのかという新入生の女の子と一緒に、稽古後の部室にいた。

狭い部室に道着と防具の匂いが充満している。4月とはいえ、剣道をした後はさすがに暑い。

 

「女性って今何人いるんですか?」

 

ほのかが聞くと、

 

「今日いた先輩と、あと今留学に行ってる先輩で、合わせて2人だけ!」

 

藤枝さんがきっぱりと言う。

 

「だから女の子5人も入ってくれて嬉しいよ」

 

そう言って屈託のない笑顔を見せる。きっと彼は、少し不器用なだけで普通に良い奴なのだろう。

 

「てか、そういえば二人とも浪人してんだよね?」

 

藤枝さんはそういって私とほのかの両方を見、つられて私とほのかで顔を見合わせ、同時に頷く。

 

「ってことは俺と同い年だよね?なら、ため口にしてよ」

 

急な申し出に驚いたが、しかしよく考えると、つい一年前まで同級生だった人に敬語を使う方が変な気がしてきたので、

 

「え、いいんですか?」

 

と確認をする。

 

「うん。てかむしろ、同い年に敬語使われる方がなんか気持ち悪い」

 

そう藤枝さんが言うので、それじゃあ、とため口で話させてもらうことにした。

 

「じゃあなんて呼べばいいの?」

 

早速ため口を使った私に、ほのかは「え~」という反応をしていたが、藤枝さんは構わず、

 

「しげきでいいよ、みんなそう呼んでるから」

 

と言った。

 

「しげき」。

この三文字が、これからの私の心の中の大部分を占めるワードになることを、この時どれくらい分かっていたのだろうか。

 

 

 

「しげきさんさぁ、かっこよくない?」

 

女子更衣室に入ると、汗が染み込んだ道着を脱ぎながら、ほのかが言った。

 

「あ、それ私も思った!普通にイケメンだよね」

「私も思った~!」

 

少し離れたところから、着替え中のサヤカとりり子が声を上げる。

もう一人、今日は休んでいる百合子という子と私を含めて、私たちの同期は女子が5人いた。

ほのかにつられて三人は喜々として「しげきさんかっこいい」という話をし始めてしまったので、私は何も言えなくなってしまった。

正直、特に「かっこいい」とは思っていなかったので、はしゃぐ彼女たちの輪に入ることができずにいたのだ。

 

「あ、先に言っておくけどさ、私5月のしげきさんの誕生日に、ケーキ作るから」

 

急にほのかのはっきりとした声が聞こえ、みんなの視線がほのかに注目する。

 

「え、あ、そうなの?」

 

戸惑いながらりり子が答える。

 

「うん、だからみんなは絶対ケーキとか作らないでね!被っちゃうから!」

 

あまりにも真剣なほのかの表情に、みんなして思わず頷いてしまう。

 

「大丈夫だよ、うちら誰もケーキ作ろうなんて思ってないし」

 

私がそう言っても、

 

「でもさ、百合子って料理上手だって言ってたじゃん。この間しげきさんとラーメン食べに行ってたし。大丈夫かな」

 

と、ほのかは心配そうだ。

私はしげきがモテるということ以上に、入部して一か月も経っていないのに先輩のために手作りのケーキを作ろうとしている子がいることに、とてつもなく驚いてしまっていた。

正直、この時はしげきに対する恋心なんかはあまりなくて、ほのかの行動力に「よくやるなぁ」と感心してしまっていた。

むしろこの時の私は、ほのかの恋愛を応援している立場だった。

 

「大丈夫じゃない?百合子も別に、ケーキまでは作んないと思うよ」

 

と取りなしても、恋の炎に燃え上がっているほのかはまだ心配そうな顔をしていた。

 

 

 

宣言通り、5月のしげきの誕生日に、ほのかは手作りのガトーショコラを持ってきた。

 

「おぉ~美味そう!ありがとう!」

 

目の前に置かれた手作りケーキを見て、しげきは純粋に嬉しそうな反応をした。

それを見てさらに嬉しそうな表情でケーキをカットするほのかを尻目に、私の後ろで百合子がボソっと言った。

 

「あの子、わざわざ私にケーキ作るなって言いに来たんだよ。敵対心持たれてるみたいでちょっと嫌な感じ」

 

実際、ほのかは気軽に男子と食事に出かける百合子に対して敵対心を燃やしており、それを敏感に感じ取った百合子も、ほのかのことを嫌がるようになっていた。

 

「まぁまぁ、ほのかは今恋してるから周りが見えないんだよ」

 

そう言って、ふてくされた様子の百合子をなだめる。

入部してまだ一か月程度なのに、新入生の女子の中で「しげきさん」というワードは、確実に頻出単語になっていた。

 

 

 

「昨日ね、しげきさんと一緒に帰ったの!」

 

同じ授業を取っていたほのかが、頬を紅潮させながら報告してくる。

 

「へぇ、部活のあと?」

 

驚いたふりをしながら聞き返すと、聞いてもいないのにこと細かに説明をしてくれる。

 

「そう!昨日は自転車乗せてくださいって言ったら、後ろに乗せてくれたの!それで、この道は幽霊出るんだぞ~とかいってふざけててさぁ」

 

息をつく暇もなく話し続けるほのかに適当に相槌を打ちながら、やはりたった一か月でここまで好きになれる方がすごい、などと考える。

 

「そっかぁ、良かったじゃん。でも、なんでそんなにしげきが好きなの?」

 

探りでもなんでもなく、純粋に疑問に思ったので質問してみたのだ。

 

「ん~とね、もともと私、高校の部活で上の学年がいなかったから、“先輩”って存在に憧れがあるんだよねぇ。で、今の部活の先輩の中なら、しげきさんが一番よくない?剣道もかっこいいし。てか、だから私しげきさんにタメ口使わないんだと思う。”先輩”でいて欲しいから」

 

そういうほのかを見ながら、「素直な子だな」と思った。

つまりほのかは本気でしげきのことを好きなのではなく、「先輩を好きな自分が好き」なのだ。そして自分のそうした心の動きに、彼女自身心のどこかで気付いている。だから、取り繕った“好きな理由”を言ったりしないのだろう。

 

 

 

ほのかのような恋愛も、それはそれで良いのだろうと思った。彼女はいわゆる「恋に恋している」状態だけれども、それに全力で取り組み、全力で楽しんでいる。少なくとも今のほのかは「しげきさん」という言葉を発する時、とても幸せそうだ。

大学の帰りにそんなことを考えながらぼうっと駅前を歩いていたら、茶髪のお兄さんに差し出されたポケットティッシュを無意識に受け取ってしまっていた。

 

「まぁいっか、ティッシュなら使えるし」

 

そう思いながら裏を見ると、『時給2500円♪週一からOK!お客さんと楽しくお話しするだけでラクちん!』などという文言が目に入る。ガールズバーというやつだ。

 

「そういえばバイト、まだ探してなかったな」

 

ティッシュを見ながらそろそろバイトを探さなければと思った。ガールズバーというものは時給は魅力的だが、やはりなんだか怪しい。そもそもガールズバーという場所がどんな店だかよく分かっていない。

 

「なら、客として行ってみればいいんじゃないか?」

 

ふと、そんな思考が頭に浮かぶ。でも、女子が一人で入るようなお店だろうか?誰か男性が一緒の方が良いんじゃないだろうか。それも、20歳以上の。

そこまで考えた時、「しげき」というワードが思い浮かんだ。

お腹の奥の方が、初めてしげきに出会った時のように、小さくザワリとした。

 

つづく(3話:揺れる心)

 

第2話でした!

今回は女子のドロドロ感が出てしまいましたが、実はこれ、全部実話なんです。本当にしげちゃんの誕生日にケーキを作った子がいたり、その子と他の子が仲悪くなったり、いろいろありました。

それから、女性と2人でラーメンに行ったり、自転車に2人乗りをしたり、しげちゃんは色々な女の子と楽しくやっていたように見えますが、草食系男子は「友達としてならいっか」と、誘いを受け入れてしまうことがよくあります。

自分から誘うことはないものの、女性から誘われた場合は最初の何回かくらいは、「特に断るほどでもないからいっか」と、他意なくついてくることも多いことは覚えておいてくださいね。

 

恋愛や草食系男子に関するご質問やご相談がありましたら

いつでも連絡くださいね(*^-^*)

 

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