こんにちは、ななおです。
前回はこちら、28話:三度目のデートから。
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初めての恋人
改札まであと数メートルというところで急に、「ごめん、話があるんだけど、ちょっといい?!」と、焦ったように引き留められた。
覚悟を決めた顔をした長野さんの、少し力の入った背中を見ながら近くの公園まで付いていくと、隣同士でベンチに座った。
「あのさ、」
ベンチに座って一呼吸つくと、思い切ったように長野さんは言った。
「俺と、付き合って欲しい」
その言葉は私が予想していた通りのものだった。だからその言葉が聞こえたときに、ゆっくりとした動作で頷いた。
そして一拍おいて、あらかじめ言おうと決めていたことを伝えた。
「実は、最近まで好きだった先輩がいて、まだ完全には忘れられていないんです。だから、そういう状態で長野さんとお付き合いすることは、失礼にならないですか?」
そう言いながら、部室で話し合ったときに何度も「ごめん」と繰り返していたしげきの姿を思い出していた。
そして仲直りできたことにホッとした一方で、今の自分が積極的にしげきと付き合いたいと思っているわけではないことを頭の中で再確認した。
すると長野さんは一言一言を選ぶように、ゆっくりと、
「好きだった人を忘れられない気持ちは、俺も経験あるから分かる。でもこれから、今日みたいに会って行く中で、徐々に俺の方に来てくれれば、それでいい」
そう言ってくれたのだった。
なんとなく、そんなことを言ってくれるような気がしていたから、別段驚きはしなかった。
「なら、そう言って頂けるなら、どうぞよろしくお願いします」
そういって軽く頭を下げてから長野さんを見ると、彼は安堵したような笑みを浮かべていた。
「実は新宿駅で初めて会った時からいいなって思ってたんだよね」
はにかんだ表情で立ち上がりながら彼は言った。
そんなことを言われたのは初めてだったから照れ臭かったが、そう言ってもらえるような素敵な女性に少しでもなれているのだとしたら、素直に嬉しいことだと思った。
2人で駅に向かって歩き、改札に着いてあらためて向き合うと、
「これから、ななおって呼んでいい?ってか呼ぶ!」
弾んだ声で長野さんにそう言われ、
「あっ、はいっ!」
と返事をする。すると、
「ななおも敬語じゃなくていいよ」
と優しく言われたので、
「あ、はい!あ!じゃなくて、うん、そうする!」
と言うと、なんだか気恥ずかしくて、お互いに照れてしまった。
「それじゃあ、また!」
そう言って、長野さん改め亮太は、改札に入った私の姿が見えなくなるまで手を振ってくれたのだった。
「うわぁ、私今、彼氏いるんだ・・・」
亮太と別れ、乗り換えのために中央線沿いの濠へと向かう信号で立ち止まりながら、そう思った。
「彼氏持ち」という人生初のフィルターを通してみると、見慣れた線路や黄色い電車までもが意味ありげな雰囲気を醸し出す。今までの自分とは違う世界に来たようだ。
亮太の気持ちを感じ始めてから、もしこういうことになったらどうするべきだろうと、何度も考えていた。だから、自分なりにしっかりと悩んだ上でのお付き合いだったし、付き合う以上は真剣に向き合うことも決めていたから、亮太とのこうした関係に対して抵抗はなかった。
むしろ、あるのはただ、新しい世界への扉が開いたことへのワクワク感だけだった。そしてそのワクワクの風に乗って、しげきから心も離れていけるような気がした。
生まれて初めて彼氏という存在が出来たことは、私の人生に新鮮な風を吹き込んでくれたのだった。
つづく(30話:亮太)
今から思うと少し浮ついてたかな?と思う部分もありますが(笑)、けれどこの時は、「長野さんとどんなところに行けるのかな?!」とワクワクした気持ちでいっぱいでした。
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私は冴えないアニメオタクでしたが、現在は一途で誠実な彼氏がいます。彼はイケメンの部類ですが、浮気の心配や不誠実さは皆無で、徹底的に一途な人です。
どのくらい一途かというと、週末ななおに会いに来るために新幹線の回数券を買ってくれているくらいです。(現在は、東京―京都間での遠距離恋愛をしています)
そんなことを言うと、ななおは元々見た目が良かったんでしょとか、オタクといいながら実は結構モテてたんでしょ、と思うかもしれません。
しかし実際は、20歳くらいまでメイクやファッションのことは何も知らず、好きだった人に「ブス」などと言われるような人間でした。さらにいうと、彼氏とは今でこそ恋人同士ですが、そうなる前に2度振られた経験もあります。
そんな私ですが、心に余裕を持つことで大逆転を果たし、彼に告白されるまでになりました。
私にもできたのですから、誰でも余裕を持つことで素敵な恋愛ができるはずです。
余裕は身に着けることができます。
単なるアニメオタクが余裕を得てイケメンに告白されるまでの過程を、下記の記事では公開しています。