草食系男子との3年間㉝:中身のない箱 ~ななお篇~

 

こんにちは、ななおです。

前回はこちら、32話:キャバクラへから。

目次はこちらから。

 

今回も少し不快になられる方がいるかもしれない内容ですが、当時の心理をできるだけそのまま描こうとしているため、あえてそのままにしてあります、ご了承ください。

 

 

中身のない箱

 

 

けたたましくなる携帯のアラームを手探りで止め、カーテンをずらして差し込んだ光に目を細めながら、庭の木々を見やる。

あぁ、今日は、デートか。これからこの明るい世界に出ていき、電車に乗り、そして彼氏に会うのか。

そう考えただけですぐにでも布団をかぶって寝てしまいたい衝動に駆られた。

 

横になりながらしばらくぼんやりと外を眺めたあと、心を決めて亮太にラインを送った。

 

 

『ごめん、なんか今日風邪引いたみたい・・・デートキャンセルしてもいいかな?』

 

 

ひしひしと罪悪感を感じた。

しかしそれと同時に、とてつもない解放感にも襲われた。

しばらくしてから既読がつき、

 

 

『え、大丈夫?分かった、平気だよ』

『そしたら、次いつ会えるかな?』

 

 

連続して返信が送られてくる。

 

 

「次か・・・」

 

 

ごろんと仰向けに寝がえりをうってしばらく天井を睨んでから、またごろんと横に向き直り、

 

 

『今週末は、会えるか分かんないなぁ。風邪次第かな?また連絡するね』

 

 

と打った。

少しでも次のデートまで間隔を空けたかった。

 

 

『分かった。早く治るように祈っておくね。それじゃ、おやすみ』

 

 

返ってきた言葉にほっとしながら携帯を放り出すと、安堵のため息がもれる。

これで、今日一日はゆっくりと過ごせる。

思わず口角が上がりそうになったことに気づいて慌てて指先でもみほぐしながら、もう一度布団をかぶり、授業のない日の大学生の特権を満喫することにした。

 

 

 

日曜の朝になって、『今日会えそう?』と亮太からラインがきた。

一度ドタキャンをしてしまった手前、さすがに連続して断ることはできなかった。

 

 

『体調万全ではないけど、行けなくはなさそう』

 

 

実際、昨日あたりから少し声が出にくくなって、咳もたまに出るようになっていた。この前ドタキャンしたばっかりに、本当に体調がすぐれない日にデートに行かざるを得なくなってしまった。

 

 

『そっか、じゃあ行こう!(笑)あんまり動かなくてすむように映画とか観よう』

 

 

そんな彼の優しさも、今は少し恨めしい。

 

 

 

遅刻して到着した新宿駅の改札には、すでに亮太がいた。

 

 

「ごめん、遅くなって」

 

 

マスクの奥からもごもごと言い訳をする。気が進まないのにまかせてのんびり準備をしていたら、遅くなってしまったのだ。

 

 

「ううん、大丈夫、もうチケット取ってきたから」

 

 

そういうと彼は軽くカバンをたたき、笑顔を作る。

なんて優しい人なんだろう。客観的にそう思った。

 

映画までに時間があったから、先に昼食をとることにした。さやかに教えてもらった海鮮丼屋さんだ。

 

 

「うわー美味しそう、どれにしよう?」

 

 

しかし楽しかったのはその時までだった。

オーダーを済ませてしまうと何も話すことがない。私の話をしてもきっと彼は「傍観」を決め込むだけだし、そもそも調子の悪い私にはそんなに話をする気力もない。かと言って亮太にこの場を盛り上げるだけの会話力があるわけでもない。

そう思いながら亮太に目線を合わせると、さっと目線を逸らす。やっぱり、ぎこちない雰囲気にしかならない。

 

 

「そういえば・・・このあいだ城田がこんなこと言ってさ」

 

 

しばらくして亮太がぽつりと話し出す。

 

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 

うまく声が出ないのをいいことに、軽い相槌しか打たなかった。性格が悪いことをしている自覚はあったけれど、体調が万全ではないことを盾に、会話を続ける努力を放棄していたのだ。そろそろ疲れが出てきていた。

二言三言話したところで、もともと話上手ではない亮太も黙り込んでしまった。

 

沈黙が続く。

黙々と箸を進める亮太を見ながら、ぼんやりと「どうしてこんな彼女のために頑張ってくれるんだろう」と思った。

一緒にいてこんなに気まずい雰囲気しか流れないのに、どうしてこの人はこんなにも私のために頑張ろうとしてくれるのだろう。それとも、気まずいと思っているのは私の方だけなのだろうか。不思議で仕方がなかった。

 

帰り際に東口を通って改札に向う途中、

 

 

「あ、ここ、俺らが初めて会ったところだね!」

 

 

そう言って顔をほころばせる姿を見ると、心が気持ち悪く揺れ動いた。

亮太のことが分からなかった。どうして、こんな私たちの関係を喜べるのだろう、私を大事にしようとしてくれるのだろう。

 

私たちの関係はまるで、中身がなにも入っていない箱のようだ。

 

そして私には、その箱が壊れてしまわないように大切に守っている亮太の気持ちが分からなかった。

もしかしたら彼は、箱の中身が空であることを知らないのだろうか。それとも、これからなにか入れたいものがあるのか。それとも中身が空だと思っている私の方が間違っているのだろうか。

なにもかも分からないことだらけだった。

そしてやはり、いつになっても、手の一つも繋いでこない人だった。

 

つづく(34話:家族会議

 

読んでいて気分を悪くされた方もいるのではないでしょうか、申し訳ありません。当時は恋愛というものが本当に分からず、問題の核心からずれたところでずっとグルグルしていました。

 

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