草食系男子との3年間㊱:別れ話 ~ななお篇~

 

こんにちは、ななおです。

前回はこちら、35話:大切なものから。

目次はこちらから。

 

別れ話

 

 

『久しぶり。元気にしてる?会いたいんだけど、どうかな?あと、今ななおがどういう状況にいて、何があったのかも、話が聞きたい』

 

紅葉が色づき始めた頃になって、亮太から連絡がきた。

距離を置きたいといって会わなくなってから1か月が経っていて、これ以上いつまでも現実から逃げることはできなかった。しかし2週間後剣道の四段審査が迫っていたために、心理的な負担を増やすことはしたくなかった。

 

『久しぶり。ずっと連絡してなくてごめんね。

とりあえず現状だけ話すと、今はわりと落ち着いてて、部活に専念してる。それで、もうすぐ大事な審査があるから、会うのはもう少し先にしてもらえると嬉しい。

あと、何があったかなんだけど、私、恋愛経験が少ないせいか、お付き合いが良くわからなくなって、キャバクラでバイトしようとしたの(笑)でも親にばれて結局やらなかったんだけどね。それで、家の中がバタバタしたりして、色々疲れちゃって、っていう感じかな』

 

退屈な講義の最中に、要点をかいつまんだラインを送った。

するとしばらくして、

 

『えっ、キャバクラ。今授業つまんなくて寝てたのに、一気に目覚めたよ(笑)とりあえずなんとなくは分かった。審査が終わったら、また連絡して欲しい』

 

そう返信があった。

 

 

 

結局、私と亮太が久しぶりに顔を合わせたのは12月に入ってからだった。

 

「ごめん遅くなって。あと部活後で、こんな格好でごめん」

 

待ち合わせ時間から数分遅れてやってきた亮太は、部活のトレーニングウェアの上にマフラーを巻いていた。一カ月半ぶりの彼は全く変わっていなくて、そして久しぶりに姿を現した私の様子をうかがっていた。

 

「本題に入ってもいいかな?」

 

近くのファミレスで席についたところで、早々に切り出した。

余計な話をする必要もないと思ったし、どうせ気まずい雰囲気になるのなら早く終わらせてしまおうと思ったのだ。

 

「え、もう。まだ料理も運ばれてないのに・・・」

 

戸惑った様子の亮太を無視して強引に続けようとすると、逆にさえぎられた。

 

「じゃあ、距離を置きたいってどういう意味?」

 

「え?」

 

面食らって聞き返すと、彼は言った。

 

「俺の中で、距離を置くっていう言葉がよくわかんなかったから、ななおがどういう意味で使ってたのか知りたい」

 

決して怒っている感じではなかったけれども、彼にしてははっきりとした口調だった。

その様子をみながら、一言一言を確認しながら言葉を紡ぐ。

 

「距離を置くっていうのは、しばらく会ったり連絡を取らないようにすることで、頭の中を整理する時間を作るっていう感じかな。私は、そういう意味で使ってた」

 

そういうと、彼はゆっくり頷いて、納得したような顔をした。

 

「そっか、分かった。それだけ、先に聞きたかったから」

 

再び穏やかな調子になったことを確認して、本題へと舵を切る。

 

「ラインでも言ったんだけど、私キャバクラで働こうとしてたの。恋愛とか、付き合うとかよくわかんなくなって、たくさん経験したら少しは分かるんじゃないかと思った」

 

一息で言い切ってから、亮太の様子をうかがうと、別段表情を変えるでもなく、淡々と私を見つめている。その様子を見ながら、この人はこんな私のことを、まだ自分の彼女だと思っているんだと分かった。

そこで鼻から大きく息を吸って肺に空気をためてから、

 

「だから、普通、お付き合いしてる相手がいるのにそんなことするなんていけないことだし、黙ってたこともいけないことだし、だから、私はあなたの彼女にふさわしくないと思う」

 

そこまで一気に言った。

分かって欲しいと思った。

 

少しの沈黙が訪れ、その間にウェイターさんが現れて、頼んだ料理を置いていった。

人がいなくなったあとも、しばらく亮太は机の上を見つめていたけれど、少しして顔を上げると、

 

「その話は、誰か他の人にしたの?」

 

と聞いた。

その瞬間、背骨の周辺の筋肉がぎゅっと強張るのを感じ、亮太から視線をそらしたいと思った。けれども、それは同時に私が嘘をついていることをバラすことになるとも思った。私にできることは一つしかなかった。

 

「うん、一人。先輩にだけ、話した」

 

「先輩・・・」

 

呟くように亮太が復唱する。

 

「前に言った、告白して振られた人」

 

そう言った私を見返す亮太の目は、こんなときにも決して私を責めることはしなかった。こんなときにも温かで、穏やかな表情を保っていた。

 

つづく(37話:亮太の真実

 

最後の最後まで、亮太はとても優しくて素敵な人でした。

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