草食系男子との3年間㊹:近づく距離 ~ななお篇~

 

こんにちは、ななおです。

前回はこちら、43話:2年ぶりの誘いから。

目次はこちらから。

 

近づく距離

 

しげきの地元で道着を新調した私は、幹部として最後の締めである、夏合宿に臨んだ。

2月に話し合いをした幹部代は結局サヤカの態度が改められることはなく、私やりり子がその分の尻拭いをする形が続いていた。

そしてサヤカは最後の最後という合宿でもトラブルを起こした。サヤカに対して言いたいことはたくさんあった。けれど、私たちはこの合宿さえ終えれば、晴れて幹部代を引退し、次の代に渡すことが出来る。

そう思ってどうにか仕事をこなし、ギリギリの均衡を保った私たちの代はやっと役目を終えることができたのだった。

 

私の幹部生活はこれっぽちも楽しいことはなかった。

幹部決めの時には先輩や同期から「蚊帳の外」に置かれ、流れで会計になったものの、実際は部長と主将のミスや不祥事が続き、その尻拭いをするために人一倍走り回っていた気がする。

けれど肩書上ただの「会計」である私の働きなど、ねぎらってもらえることもない。基本的に「一年間頑張ったね」と評価されるのは、目立つポジションのサヤカか、部長という肩書を持っているりり子だ。

だから私は、自分のしたことは誰にも評価されなくていいと思っていた。「後輩のため、部活のため」に、自分がやりたいことをやっただけだと、そう自分に言い聞かせていた。

 

けれど部員からの寄せ書きの色紙を見て、見ていてくれる人は見てくれているのだと、実感した。

 

『ななおさん、お疲れ様でした!ななおさんが一番頑張ってるように見えました!ななおさんのような幹部になれるように頑張ります!』

 

次の代の子はそう書いてくれていた。

そして、

 

『ななおが部にいてくれて本当に良かった』

 

そう、しげきが書いていた。

思わず目頭が熱くなりそうになるのを押さえながら、しげきや後輩たちがこんな風に思ってくれていたのかと、報われる思いがしたのだった。
特にしげきは、一見言葉少なで表面上はクールを装っているように見えていたものの、内心はきっと色々なことを考え悩んでいたのではないか、そんなことを感じさせる一言だった。

 

 

 

少しずつ残暑が和らぎ秋の空気が強まってくる頃、大会を終えた私たちは恒例行事の飲み会に来ていた。その飲み会は現役部員に限らず、OBOGさんも参加するような賑やかなものだった。

会も中盤になり、そろそろ出来上がってくる人が増えてくる頃だった。

 

「お前、ななおの隣に行けよ」

 

とある先輩がしげきにそう指示をした。なぜ?と不思議に思う私を尻目に、しげきは先輩に言われるがままにジョッキを持って私の隣に移動してくる。

ジョッキを持ってドスンと座ったしげきはわずかに頬を赤くして、少しいい気分になっているようだった。

お互いにちらりと隣をみるものの、特に言葉はない。しげきもわざわざ隣に来たくせに、あえて少しスペースを空けて座っているようにも見えた。

 

「食べる?」

 

何も言わない隣人に手持ち無沙汰になった私は、目の前にあった焼き鳥をしげきの口元に突きつけるように出した。

 

「いや、俺もうお腹いっぱいだから」

 

「いいじゃん、食べなよ」

 

私も少しお酒が入っていたことは否めない。

拒否するしげきの口元に強引に焼き鳥を押しつけると、しげきは一瞬眉をしかめた後、そのままそれを口にした。

 

「おー、食べられるじゃん」

 

いい気になった私が調子に乗っていると、

 

「次、お前な!」

 

そう言って今度はしげきが焼き鳥を押しつけてくる。

 

「いや私は無理っ!」

 

そういって全力で焼き鳥の攻防をしていると、さっきまであったスペースが縮まり、足が触れ合うまでに距離が近くなっていた。

右足の外側にしげきの左足の感触を感じながら、嫌な気がしないので放っておくと、しげきもその足を離さないのだった。

そして私のおしぼりを手に取り、焼き鳥のタレがついた口元をぐいっと一気に拭いた。

 

「あ、それ私のなんだけど!」

 

慌てておしぼりを取り返すと、しげきは、

 

「うん、知ってる」

 

さらりとそう言ったのだった。

 

えぇ、普通女子のおしぼり使って自分の口元拭く?

内心そう突っ込んだけれど、ほろ酔い気分だったこともあって全然嫌だなという気にならないのだった。

 

その後も、スキがあれば私のお冷を飲もうとするしげきからジョッキを取り返そうとしたり、まるでお互いを意識しだしたばかりのカップルのように、私たちは2人の世界に入っていたのだった。

 

もしかしたらしげきは私のことが気になり始めているのではないか?
お酒でぼんやりした頭でもそんなことをチラリと考えるほど、その日の私たちは仲良く過ごしたのだった。

2年半越しに、運が私に味方し始めているような気がした。

 

つづく(45話:マサトとの出会い)

 

正直この日は、私達至上最も人前でいちゃついた日だったと思います。
今から思えばかなり恥ずかしいこともありますが、お酒が入っていたので仕方がないと思いたいですね・・・(笑)

 

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