草食系男子との3年間㊺:マサトとの出会い ~ななお篇~

 

こんにちは、ななおです。

前回はこちら、44話:近づく距離から。

目次はこちらから。

 

マサトとの出会い

 

3年生の二学期になると、大教室で行われる授業を取り始めた。

その授業の先生はアシスタントの学生を一人連れていて、彼はいつも先生が来る前に教室に来て、授業の準備を手伝っているようだった。

普通、学部の授業のアシスタントをするのはTAとかRAとか呼ばれるような大学院生なので、彼もきっと大学院生なんだろうと思っていた。

 

ところがその授業が終わって次の教室に移動すると、その彼が今度は学生の側の席に座っていた。

 

「あれ、大学院生じゃないのかな?」

 

そう思いながらちらりと彼を見ると、彼もこちらに気づいたようで、一瞬、視線が合った。

その授業は少人数の授業で小さな教室だったから、彼との距離もそう離れてはいなかった。

 

通った鼻筋、真っ黒な髪にどちらかというと色白な肌。けれどもスポーツ経験者なのか、体つきはしっかりとしていた。そして大きくてきれいな二重の目には、男性らしい色気が滲み出ていた。

 

彼と目が合ったとき、わずかに心臓がドキリと動いた。

 

正直、かなり好みだった。

 

 

授業が始まると、実は彼が学部の4年生だということが分かった。そして、須藤マサトという名前だということも知った。

ということは、学部生である彼が先の授業でアシスタントをしていたことは、とてもイレギュラーなことだ。よほど出来る人なのに違いなかった。

 

実際、彼は自信に満ちたよく通る声をしていて、発言内容も的を射ていた。そしてそれらの発言はいつもしっかりとした根拠に基づいていた。さらに帰国子女でもある彼は、英語も堪能だった。

整ったルックスの中に理知的な雰囲気を漂わせる彼が、とても魅力的に見えた。

 

 

3回目の授業の時に大教室から小教室に移動すると、まだ私以外にマサトしか来ていなかった。

真ん中よりやや後ろの席に座っている彼を見て、前から2列目の席に座った。

何回か顔を合わせてはいるけれど、個人的に話をしたことはない。話しかけるべきなのか迷って、結局顔を見ずにすむ席にしたのだ。

 

しばらく沈黙があったあと、マサトが大きく伸びをする気配がした。

そして、

 

「眠くないっすか?」

 

そういった。

小さな教室の中には私と彼しかいない。その言葉は、確実に私に向けられていたものだった。

 

「え、そうですか?」

 

仕方なく後ろを振り向く。

さらりとした二重の目がまっすぐにこちらを見ている。

 

「眠い時、ブラックコーヒー効きますよ。砂糖入ってないやつ」

 

そうアドバイスすると、

 

「マジっすか?いります?コーヒー」

 

柔らかそうな頬に笑みを浮かべながら彼が言ったので、ノリで聞いてるんだろうと思い、

 

「まぁ、あったら欲しいですかね」

 

と、適当に答えた。

すると彼は急に財布を持って立ち上がり、そのまま教室を出ていこうとした。

慌てて、

 

「あ、私のは自分で買うんで大丈夫です」

 

と立ち上がろうとしたが、

 

「買ってくるから、待ってて」

 

と言われ、仕方なく浮かしかけた腰をまた下ろした。

マサトへの返答としてコーヒーの話をしただけで別にコーヒーが欲しかったわけではないし、そのせいでまさか彼が本当に買いに行ってしまうなんて思ってもいなかった。

思わぬ展開に少しパニックになっていると、颯爽と戻ってきた彼が、

 

「はい」

 

と言って一本のブラックコーヒーを手渡してくれた。

慌てて財布から100円を取り出そうとすると、「いいからいいから」と言われてしまい、私の手元にはマサトが買ってくれたブラックコーヒーが残されたのだった。

なぜこんなことになったのかもよく分からないまま後ろを向いて軽く頭を下げると、コーヒーを飲みながら彼も軽く会釈を返してくれた。

顔を上方に傾けながら視線だけをこっちに向けるマサトの目元には、やはりほのかな色気が滲み出ていた。

 

自分でも簡単だなと思うけれど、その時から私の心の中に、しげきへの想いとは別の、マサトのためのスペースができ始めていた。

 

そしてそのコーヒー事件をきっかけに、私とマサトはたびたび言葉を交わすようになっていた。

 

つづく(46話:急激な恋心

 

まさか、しげきとの関係が再び上手く行き始めたころにマサトと出会うとは思っていませんでした。この頃はしげきのことに限らず、恋愛全体の運気が良かったのかもしれません。

 

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