草食系男子の3年間 68話:好きということ~ななお編~

 

どうも、ななおです。

前回の話は、草食系男子の3年間 67話:話し合い~ななお編~

では、続きをどうぞ。

 

好きということ

 

「どうして?確かにちょっとずるかったけど、でも遊んだわけじゃないし、ななおのことしか好きじゃないよ」

慌てるようにしげきが言う。そんな昔のことを今更持ち出さないでくれというように。

「じゃあ、実菜と2ヵ月だけ付き合ったって、どういうこと?好きでもないのに付き合ったの?」

「それは・・・」

感情のあまり、何かいいかけたしげきを遮ってしまう。

「私は、しげきは適当な付き合いをする人じゃないと思ってた。私のことも何度もそう言って断ったよね。急に人が変わっちゃったの?」

「…ごめん」

まるで素直に認めるような言い方をするしげきが、さらに憎たらしくなった。

「別に、私の前に誰かと付き合ってたことが嫌とかじゃなくて、本気じゃないお付き合いをしてたことが分からないの。しげきはそういうの、一番嫌う人じゃなかったの?」

「そうだよね。あの時の俺は、どうかしてたと思う」

「何それ…」

言い訳じみた物言いに思わず絶句してしまう。

「俺、4年生で、だけど一度も彼女できたことなくて、ちょっと焦ってたのかもしれない。それで、実菜が俺に声かけてくれて、気さくな子だから一緒にいても楽しくて、それでなんか、この子ならいける、って思って、おもわずオーケーしちゃったんだ。でも、いいよって言った直後に、後悔した。この子とは、友達でしかいられないなって。遅いよな、気付くの」

しどろもどろなしげきの説明を聞きながら、再びため息が出る。

「遅いよ…」

「ごめん」

「だったら・・・」

涙で喉に引っかかった言葉を、つっかえながら、言い直す。

「だったら、私でも良かったじゃん。仲の良い女の子なら誰でも良かったなら、私でも良かったじゃん」

きれいごとでは済まない感情もあった。そしてプライドもあった。
どうして私よりも先に実菜を選んだのか。誰でも良かったなら私でも良かったはずなのに、どうして他の子だったのか。

悔しくて悲しくて、また涙がこぼれた。

「言い方変だけど、ななおのことはどこかで諦めてた。二回も振ってるんだから、いまさらななおと付き合うことなんてできないって決めつけてた気がする。でも、実菜と付き合ってる時も、もしななおと付き合ってたらどうなってたかなって、いつも考えてた」

「そんなこと言ったって・・・」

いまさらそんなこと言われても、全然嬉しくない。

「それで…それで実菜と付き合って違うなって思って、私の方に来たってわけ?」

何か言おうとするしげきを遮って畳みかける。

「自分のこと好きだった私のこと思い出して、こいつならいけそうだなって、そう思ったわけ」

とても意地悪な言い方をしていた。でも、仕方がなかった。

「違う。そんなんじゃなくて」

しげきは上手く言葉にできない自分にもどかしそうに、語ろうとした。けれど私は再びそれを遮った。

「私はさ、3年間ずっとしげきのことが好きだったの。確かにその間には色んな事があったけど、それでもずっとあなたのことが好きだった。だけど、しげきがもし“やっぱりこっちの方がいいかな”みたいな軽い気持ちで私と付き合ってるんだったら、それは全然嬉しくない。いくら本気で好きな相手だとしても、自分と同じくらい本気な気持ちを持ってくれてる相手としか、私は付き合いたくない。昨日のしげきの話を聞いてたら、しげきの気持ちがよく分からない。信用できないし、付き合えたことを嬉しいとも思えないよ」

数枚のティッシュではもうどうしようもなくて、ティッシュ箱をひと箱抱えながら、私は話をしていた。誰かにこんなに感情をぶつけながら話すことは、初めてのような気がした。

「そんなんじゃないよ」

しげきは困ったように、そして同時に諭すような声で言った。

「たぶん俺は、これまで人を好きになることがどういうことか、全然分かってなかったんだと思う。それでちょっと、変な寄り道もしたりしたけど・・・。でも、ななおのことを好きな自分が一番自分らしくいられるし、ななおと一緒にいるときが、俺にとって一番幸福な時間だって気づいた。今さら遅いって言われるかもしれないけど、それをどうしてもななおに伝えたかったから、だから、昨日は告白した。今告白しなかったら、たぶん一生後悔することになると思ったから」

しげきの言葉に頷きながら、涙と鼻水が出てきて止まらなかった。
気付けば私の周りには丸まったティッシュの山が出来ていた。

「私は最初からしげきのことが好きだったけど、しげきはそうじゃなかったから、いつもしげきへの気持ちを隠しながら付き合ってきた。だから、これから、どうしげきに接したらいいのか分からない。どのくらい自分の気持ちを表現していいのか分からない」

しげきの気持ちをどれくらい信用していいのか、まだ私は図りかねていた。せっかく付き合ってしげきを大好きでいられると思ったのにまた拒否されるなんてことは、もう絶対に味わいたくなかった。

「全部表現していいよ。ななおが思ってることとか感じてることとか全部、俺に見せて欲しい。それで、俺もななおへの気持ちをちゃんと表現するから」

「しげきが私への愛情を表現するの…?」

大粒の涙をこぼしながらも、思わず眉をひそめてしまった。私の知っているしげきは女性への愛情表現をできるような人では全然なくて、ましてや何年も拒否してきた自分に対してしげきが愛情表現をするなんてことは、これっぽっちもイメージできなかった。

「どんなふうに…?」

あまりに想像できなさすぎて、思わず素で聞いてしまった。

「例えば…抱きしめるとか?」

スマホ越しに聞こえたしげきの声はふざけているわけでもなんでもなくて、むしろ、馬鹿が付くぐらい大真面目な声音だった。そんな大真面目な「抱きしめる」と普段のしげきとのイメージがあまりに真逆すぎて、思わず私は笑い声を漏らしてしまった。

「なにそれ、しげきが“抱きしめる”とか、イメージできなさすぎ。やば。きも笑」

3時間にもわたる長い話し合いの中で、初めて笑みがこぼれた瞬間だった。

「俺だって、抱きしめたりできるよ」

あまりにイメージとかけ離れた言葉に笑いが止まらない私に、憮然とした声でしげきが言う。

「無理だよ、無理。だってしげきじゃん」

そう言いながら少し、自分の中の重石が軽くなっているのを感じていた。
しげきの言葉がどれくらい本当なのかは、これから付き合っていく中で見極めていくしかない。けれど、3年間積もっていた私の想いに真剣に耳を傾けて、それに応えようとする姿勢をしげきが見せたことは確かだった。そして、過去に犯した過ちを素直に認め、それを改善する気持ちを持っていることも感じられた気がした。

だから、「俺と付き合ってくれる?」と、頃合いを見てそう確認したしげきに対して、少し間を開けながらも、「わかった」と、返事をすることができたのだった。

今回はこのあたりで。
次回もお楽しみに。

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