草食系男子との3年間⑪:夏合宿でのこと ~ななお篇~

 

こんにちは、ななおです。

前回はこちら、(10話:三角関係解消)。

目次はこちらから。

今回は11話です、どうぞ^^

 

夏合宿でのこと

 

強化連が終わると、すぐに5泊6日の夏合宿がやってきた。

東京よりも少し涼しい長野に行き、そこで部員皆で稽古に励むのだ。

部活をやめると言っていたほのかも、最後のイベントとして合宿には参加していた。

 

そのころの私は三角関係が解消されたこともあって、自分の中のしげきへの気持ちを抑え込む必要がなくなっていた。

相変わらずデートに誘う口実は作れていなかったけれど、心の中ではしげきのことが好きで仕方がなくて、いつも頭の中はしげきでいっぱいだった。

もちろん稽古中は余計なことを考えている余裕はなかったけれど、それでも、しげきの汗ばんだ匂いがふっと香ったときに、ドキっとしてしまうことは避けられなかった。

この頃は本当にいつもしげきのことを追いかけていた。

 

 

合宿5日目の夜、顧問が部員全員を1つの部屋に集めた。

全員が集まったころにはすでに先生は多少お酒を飲んで出来上がっていて、しげきはそんな先生のすぐ隣で、まるで小姓のように付き添っていた。

全員が集まると、先生は少し酔った調子のまま言った。

 

「俺は、この合宿で、現役を引退する。」

 

みんながシーンと静まり返る中、さらに先生は続ける。

 

「俺は、この部を創設してから何十年も見てきたが、今はその中で一番と言っていいくらいに盛り上がっているとてもいい時期だ。一年生も経験者がたくさん入ってくれて、とても頼りがいがある」

 

そう言って、先生は私達一年生のことを指差した。

 

「だから俺はもう、お前たちに全ての稽古を任せることにした。これからは、ここにいる藤枝を中心にして、皆で稽古のメニューを組んで、みんなで部を盛り上げてくれ」

 

先生はそう言うと、側に侍っているしげきの背中をドンと叩いた。

しげきは口を一文字に結んだまま、小さく頭を下げた。

 

そんな様子を見ながら、私は妙な感動に浸っていた。

私はこの剣道部がとても好きだった。先生の指導方針も、先輩たちも同期も好きで、そんなみんなが作り上げた剣道部の雰囲気がとても好きだった。

そんな部活が、この夏合宿を境に大きく体制を変える。みんなが絶対的に頼りにしていた先生が引退して、全てを学生が指揮するようになる。

先生自身、今まで何十年も指導してきた現場を離れるのは相当覚悟が必要だったはずだ。覚悟を決めるためには、自分の代わりにこの部を引っ張っていく役目を果たす、信頼して任せられる相手が絶対に必要だったはずだ。

そして先生は自分の後を継ぐ最初の人物として、しげきを選んだのだ。それはしげきの剣道、部活への姿勢、そして人柄など、総合的にみてしげきを評価したからに外ならなかった。

だから、先生が今の私達部員とその雰囲気を評価してくれたことに加え、自分の好きな人をそのリーダーにふさわしい人物として認めてくれたということが、とても嬉しかった。

 

そしてそんな高揚感、幸福感と部活への想いがしげきへの気持ちに結びついて、急に好きという気持ちが極限まで押し上げられたようになってしまった。

先生の側で緊張しながらも決意に満ちた表情をしているしげきが、今まで以上に愛おしく感じた。しげきの側に行って、しげきの体温を感じたいと思った。しげきに少しでも触れたいと思った。

けれども今のしげきは先生の側近で、私が行って邪魔をすることは許されなかった。しげき自身、今は先生の期待に応えることで頭がいっぱいで、他の事など考えられないようだった。

 

急に体中に駆け巡った熱い気持ちを消化することができなくなった私は、先生の話が落ち着いたころ、こっそりとトイレに立った。

しげきの側に行けないだけでこんなに苦しくなるのかと自分でもびっくりした。でもそれだけ、しげきのことで頭も胸もいっぱいだった。

 

 

私がトイレから出てくると、現役学生だけで近くの湖まで花火をしに行った。

しげきはさっきまでの緊張した面持ちとは打って変わって、シマ先輩と一緒にふざけて遊んでいた。

私はそんなしげきを少し離れた砂浜に座って眺めていた。

 

すると急に現部長である先輩が私の隣に来て座り、言った。

 

「お前の好きな人ってさ、あいつ?」

 

なんの脈絡もない突然の言葉に、「えっ?!」と思って振り返ると、

部長は「全て知っている」というような顔でしげきを見つめていた。

 

「あ、はい、そうです」

 

部長がすでに知っているような感じだったので、私は素直にそう認めた。

すると彼は、「頑張れ」でも「やめとけ」でもなく、ただ、

 

「そっか」

 

と言った。

けれどその言葉を聞いた私は、なぜかぐっと背中を押された気がした。

 

翌日、長野から東京に帰ると、ほのかは宣言通りに部活をやめ、しげきは新しい体制になった剣道部の部長になった。そして私は、そんなしげきへの気持ちを伝える準備に、本格的に取り掛かっていた。

 

つづく(12話:告白の準備

 

その年の夏合宿は色々と印象深いものでした。

それまでの部長としての役目以外に、先生の後を継がなくてはいけなくなったしげきにとっては、想像以上のプレッシャーがかかっていただろうなと、今となっては思います。。。

 

 

 

 

 

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