草食系男子との3年間㉘:三度目のデート ~ななお篇~

 

こんにちは、ななおです。

前回はこちら、27話:和解から。

目次はこちらから。

 

三度目のデート

 

長野さんとの三度目のデート場所は東大に決まった。

いかにもデートスポットという場所よりも、彼が普段生活している場所に行きたかったのだ。長野さんは最初あまり乗り気でなかったようだけれど、最終的にはその後後楽園に行くというプランで了承してくれた。

 

待ち合わせ場所の本郷三丁目の駅から道なりに歩き、赤門をくぐる。
最初は彼の所属する経済学部の建物や重厚な図書館などを紹介してもらった。

そして一通り歩き終えると大学生協でガリガリ君を買い、プラプラと三四郎池に向った。

落とさないように慎重にアイスをかじりながら、緑に覆われた池の周りを歩く。8月に入ったばかりの池のほとりは蝉の大合唱で満ちていた。

 

「俺、ここまで来るの初めてかもしれない」

 

池の中腹の渡し板に来たところで、後ろから長野さんが言った。

 

「そうなんですか?東大生なのに?」

 

「うん、いつも入り口の辺りまでしか来たことなかったから」

 

「ふ~ん、じゃあ初体験ですね!」

 

そういうと、「うん」とはにかんだ様子で返事をする。本当に素直な人だなとつくづく思う。

 

「あ、もみじ」

 

「え?」

 

「もみじの影が」

 

そう言って浅瀬にある石の上を指差す。

 

「もみじの影が水に映って揺れてるの、きれい」

 

低い位置にある緑もみじの群れが水の上に影を落とし、日の光を反射しながらゆらゆらと揺れていた。

元来もみじや桜といった日本らしいものが好きな私は、思わず水面に揺れるもみじの美しさに見とれてしまったのだ。

 

すると、

 

「そういう・・・その影を綺麗だと思えるその心が、きれいだと思う」

 

と隣で彼が言った。

 

どことなくぎこちない言い方だったけれども、自分の気持ちをきちんと伝えたいという思いが伝わってきて、だからこそ彼のその言葉が本音だということがよく分かって、思わず照れて顔を背けてしまった。
でも内心嬉しくなっていたし、少しときめいたのも事実だった。

 

その後長野さんと会わなくなってから何年か経ってもふと、彼のこの言葉を思い出すことがある。私に言わせれば、そんなことを思える長野さんの心とそれを真っ直ぐに伝えられる勇気の方がよっぽど素敵だと思うのだ。

そして短い間でも、そんな人に出会えたことは幸せなことだったと思う。

 

 

大学を後にして少し電車に乗り、後楽園遊地へ向かった。

着いて早々に観覧車に乗りたくなった私は、あまり良い顔をしない長野さんを説得して、無理やり乗らせてもらったのだった。

平日の昼間に観覧車に乗る人なんてほとんどいないようで、観覧車はガラガラだった。

 

乗り込んだ後に、長野さんが緊張しているのが分かった。揺れる個室で向かい合わせに座ったものの、ちょっと目が合っただけで素早く視線を逸らされてしまう。

純粋に観覧車に乗りたかっただけでそんな雰囲気にしたかったわけではなかったから、彼の様子に悪いことをしたような気になった。

 

徐々に高い位置まで行き、気まずい雰囲気に穴を開けるようにありきたりな歓声を一通り挙げてみたものの、またすぐに無言の時間が訪れてしまう。

会話もなく手持ち無沙汰でいると、急に長野さんが深呼吸をし、何か言いたげな視線でじっと私を見つめた。
だから、その気持ちを受け止めなければと、私もしっかり彼を見返した。すると彼は、またすぐに力なく視線を落としてしまったのだった。

そしてそのまま、言葉数少ないまま地上に戻されると、出口でとてつもなくぎこちない記念写真を撮られたのだった。

 

 

その後もパーク内を歩きスイーツを食べたりしたけれど、夕方頃に「そろそろ帰る」と私から告げた。

長野さんはもう少し引き留めておきたそうな表情をしたけれど、結局は駅まで送りにきてくれた。

そして改札まであと数メートルというところで急に、

 

「ごめん、話があるんだけど、ちょっといい?!」

 

と、焦ったように引き留められた。

「あ、くる」と直観して彼の顔をみると、長野さんは覚悟を決めた表情をしていた。

 

つづく(29話:初めての恋人

 

長野さんは今から思い出しても素敵な人だったなぁと思います。そして、しげきとのことで悩んでいた時に出会ったのがこの人で良かったなぁとも思うのです。

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