草食系男子との3年間㉚:亮太 ~ななお篇~

 

こんにちは、ななおです。

前回は29話:初めの恋人から。

目次はこちらから。

 

亮太

 

私には今、彼氏がいる。

誰よりも私を大切にしてくれて、好きだと言ってくれる、そんな彼氏がいる。

 

亮太は自分の気持ちをいつもまっすぐに伝えてくれた。

「会いたい」と言う言葉も隠さずに言い、それで私が照れると、「こういうのはちゃんと伝えないと伝わらないから」と言って笑った。

 

そんな亮太の存在のおかげか、私はしげきに対しても臆せずにいられるようになった。

去年はしげきを見ているだけで胸が締め付けられるように苦しくなった夏の合宿も、今年は随分余裕をもって終えることができた。

そして晴れて新幹部になったときも、それまで数か月間モヤモヤとしていた気持ちを捨て、「私は多くを望まれていないかもしれないけれど、一幹部として、下から部活を支えて行こう」と気持ちを新たにすることもできたのだった。

その年の夏は、確実に去年までとは違う夏を過ごすことができていた。

 

 

8月が過ぎた9月1週目の週末、夜の東京スカイツリーはしとしと雨に包まれていた。

どんよりした空だったのでビニール傘を持って行くと、最寄り駅で待ち合わせたころにはぽつぽつと弱い雨が降っていて、二人でなんとなく一つの傘に入った。

初めての相合傘に少しドキドキし、そろそろ亮太が手をつないでくるのではないかと、わずかな期待もしていた。しかし彼はスカイツリーに着くまで、手はおろか、腕にもほとんど触れずに通したのだった。

 

チケットを買って展望デッキに行くと、ぐるりとした東京の夜景が広がった。夜だというのに、どこもかしこも明るいライトで光っている。東京の人は、本当にいつも忙しい。

初めてのスカイツリーからの景色には特に感動することもなく、人混みから逃げるようにソラマチまで降りてきた。

カフェに入ってお茶を飲んでいると、おもむろに亮太が携帯を取り出した。

 

「これ、俺の地元の駅前」

 

そう言って見せてくれた写真には、舗装されていない細い一本道とその両側から道を侵食しようとしている、人の背丈ほどの雑草の群れが映っていた。

 

「え・・・これ、駅前・・・?」

 

「駅前」という言葉のイメージとは全く異なる写真に思わず吹き出しながら言うと、亮太も笑みを浮かべ、「田舎だから」という。

 

「え~、これは、逆にすごい。本当になんにもないじゃん。裏庭に行く道みたい」

 

そう言いながらもう一度じっくりと写真を眺めていると、亮太が写真をスライドさせる。

 

「ん・・・?」

 

出てきた写真に戸惑った顔をすると、

 

「これ、俺の父親と母親」

 

と、彼は言った。一瞬、表情が動き方を忘れた。うまい反応ができなかった。

 

「へぇ、お父さんとお母さん・・・あんま似てない?かな?」

 

なんと反応をすればいいのか分からなくて、思いついた言葉をそのまま音声にする。体を起こしてさり気なく写真から目を逸らせながら、自然と自分の携帯を握る手に力がこもる。

 

「うん、ちょっと、見せたくなって」

 

そう言って携帯をポケットにしまった亮太に「そう」と笑顔を見せながら、やはり妙な違和感が全身を覆っているのが分かった。

 

遠くで雷が光っていた。それも一度ではなく、何度も何度も明るい旋光を闇夜に走らせる。

 

「雷、近づいてるんじゃない?」

 

それとなく帰ろうと促したが、亮太はうんとは言わなかった。

 

「まだ、大丈夫だよ」

 

そういってゆっくりコーヒーカップに口をつけてから、

 

「スカイツリーにこんなカフェあったんだね。俺知らなかったよ」

 

と話を続けた。

 

「あ、うん。ここ、去年も来たんだよね、浅草のお祭りの後に部活の人と一緒に」

 

ふっと、しげきの影が頭の片隅によぎる。

去年の夏の終わりに、しげきと、しげきから中国人に心を移したばかりのほのかと、三人で来たのだ。すぐ近くに見えるベンチに座って、三人で風に吹かれながら月を見ていた。私の右側には、しげきがいた。

 

「へぇ、そうなんだ」

 

亮太はそれ以上深くは聞いてこなかった。

そういえば私たちは、まだお互いの過去の恋愛の話を聞いたことがない。この機会に聞いてしまおうと思った。

 

「亮太は、私の前に何人くらい付き合ったことあるの?」

 

「えっと・・・」

 

そういうと彼は指を折って確認した後、

 

「ななおで、四人目かな」

 

と言った。思わず「えっ」と口が開いてしまった。

正直なところ、せいぜい一人か二人くらいだろうと思っていたのだ。亮太はいわゆるカッコいいと言う見た目ではなかったし、真面目なお付き合いをする人だと思っていたからだ。

しかし話を聞いてみると、中学生の頃に一人、高校生の頃に一人、大学で私の前に一人ということだったから、決して遊び人というわけではなさそうだった。そして付き合った期間もそれぞれあまり長くはないようだった。

そんな形の恋愛もあるんだなぁなどと思っていると、「ななおは?」と聞かれたので、

 

「私は彼氏できたの初めて」

 

と言うと、彼は遠慮がちに、けれども少し嬉しそうに笑った。

 

光だけが見えていた雷の音が、うっすらと聞こえるようになってきた。

空になったカップを置くと、来た時と同じように一つの傘に肩を寄せ合って入った。駅へと戻る道のりの中でも、やはり亮太が私に触れてくることはなかった。

 

つづく(31話:迷い

 

少し怪しげな雰囲気が漂ってきたのが分かるでしょうか・・・(笑)
続きはまた書いていきますね^^

 

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