こんにちは、ななおです。
前回はこちら、33話:中身のない箱から。
目次はこちらから。
家族会議
10月も二週目に入ったころ、やはり何の進展もない亮太とのデートを終えて家に帰ってくると、家の中に重苦しい空気が流れていた。
リビングに父親と母親、姉が黙って座っている。
「え、なに、どうしたの」
そう聞くと「いいから来なさい」と呼ばれ、座らされる。
その瞬間、なんとなく察しがついた。きっとキャバクラの話がバレたのだ。
三人そろって斜め下を向き、正面から私を見ようとしない。少しの沈黙が流れたあと、
「キャバクラで、働こうと思ってるのか」
どんよりした雰囲気に裂け目を入れるように父親が言葉を発した。
「あぁ、うん、まだ今は準備中だけど」
予想通りだった。しかし問題はどうしてバレたのかだ。
「私が、あんたの日記を読んだの。大学のレポートだと思って」
私の顔に質問が書いてあったのか、姉が白状した。
「勝手に日記読んだのは悪いと思ったけど、でもことがことだから、親に報告した」
なるほど。昔から、姉が時々私の本棚を見ていることは知っていたが、今回運悪くキャバクラの箇所を読まれてしまったということだ。きちんと隠さなかった私の不備とも言えるかもしれない。
残念だ、これから働くという直前のところだったのに。
自分でも不思議なくらい、冷静に物事を考えることができていた。
「お金が欲しいのか」
父親が言った。
「違う」
「じゃあ、どうして」
私の日記を読んだのならその辺りのことも知っているんじゃないだろうか。それとも、私自身の口から言葉を引き出したいのだろうか。
「水商売とか、そういうお仕事ってだけで、差別するのは、違うと思うようになった」
「それで」
「自分の恋愛スタンスとか、よく分からなくなった。だから、お仕事としてそんな感じのことをしてみることで、探してみようと思った」
出来るだけ淡々と答えたつもりだったけれど、実際の声は心もとなく震えていただろう。
「キャバクラでか」
「そう。お金を介しておけば、後腐れない関係が持てると思った。自分の中で」
父親が黙り込むと、今度は母親が口をはさむ。
「キャバクラっていうのは、客がお金を払ってるんだから、あんたは嫌なことも我慢しなきゃいけない。事件に巻き込まれる人だってたくさんいるんだから。」
ちらりと母親をみやりながら、小さくうなずいた。
分かっている。そんなことは分かった上での話だ。
「それでも、どうしてもやりたいのか」
父親が念を押すように便乗する。
そして、こういった。
「もし、恋愛ごっこがしたいなら、客としてホストクラブに行くこともできる」
予想外の言葉に思わず顔を上げると、
「そのためのお金なら、出す」
そう父親は続けた。
その瞬間、ふいと目線を逸らして、もう駄目だと思った。どこの家に、ホストクラブに通うお金を父親に出してもらう娘がいるのだろう。父親にここまで言わせてしまった時点で、もうこの話はなかったことにしなくてはいけないと思った。
自分の部屋に戻り、店長にラインをした。すぐに折り返しでかかってきた電話に出ると詳細を聞かれ、最後には「またいつでも気が向いたら戻ってきてください」と言って、彼は電話を切った。
どっと疲れが襲ってきた。そしてなぜか大粒の涙があふれてきた。
全てがどうでもいい気がした。重荷になるものは全て排除したかった。
『夜にごめん、いきなりなんだけど、少し距離をおいてもいいかな』
亮太にラインを送り、その日はそのまま泥のように眠った。
亮太からの返信は、分かった、というものだった。勿論理由は聞かれたけれども、今は話せない、また今度話せるようになったら話す、とだけ伝えた。
実際、今はまだ自分の中で整理がついていなかったし、落ち着いて話せるような精神状態でもなかった。
つづく(35話:大切なもの)
この日の家族会議は私の人生の中でも有数の修羅場だったと思います(笑)
そして結局亮太とは距離をおく、という形になってしまいました。亮太にとっては本当にどうしようもない彼女だっただろうなと、それだけは分かりますね・・・。
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私は冴えないアニメオタクでしたが、現在は一途で誠実な彼氏がいます。彼はイケメンの部類ですが、浮気の心配や不誠実さは皆無で、徹底的に一途な人です。
どのくらい一途かというと、週末ななおに会いに来るために新幹線の回数券を買ってくれているくらいです。(現在は、東京―京都間での遠距離恋愛をしています)
そんなことを言うと、ななおは元々見た目が良かったんでしょとか、オタクといいながら実は結構モテてたんでしょ、と思うかもしれません。
しかし実際は、20歳くらいまでメイクやファッションのことは何も知らず、好きだった人に「ブス」などと言われるような人間でした。さらにいうと、彼氏とは今でこそ恋人同士ですが、そうなる前に2度振られた経験もあります。
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