こんにちは、ななおです。
前回はこちら、39話:話し合いから。
目次はこちらから。
一番の女友達
サヤカとの話し合いも終わった2年生最後の春休み、私としげちゃんはバイト仲間との飲み会に参加していた。
仲の良い仲間6人ほどで度々開いていたそれは、バイト先を辞める私にとって、最後の飲み会だった。
「前から思ってるけどさぁ、そこの2人って付き合ってんじゃないの?」
その中で、場の盛り上げ役だったTが私としげちゃんを指差していう。
「よく一緒にバイト来たりするし、仲良いじゃん」
Tのそんな言葉に、周囲の人が口々に「自分もそう思っていた」と同意する。
そんな言葉に私としげちゃんは顔を見合わせると、決まって、
「大学が同じだからだよ」
という。
「ついでに部活も一緒だから、帰る時間とかバイト来る時間が重なるんだよ。でもそれだけで、別に付き合ってないよ」
そう言って、飲み会で時々話題に出される私たちの関係性は、いつもそうやって笑いながら否定してきた。
けれどやはり私たちの関係性を否定しながら、なんとなくつまらない気持ちになるのも事実だ。
なぜなら本当は「付き合っている」のではなく、完全に私の「片思い」なのだから。けれどそんなことをバイト仲間にグチるつもりもないし、しげきもそれをバラすなんて性格の悪いことはしなかった。
しげきは私と一緒になって笑いながら否定をする。しかもそんな時のしげきはいつも少し楽しそうだ。
普通、まったく興味がない人との関係性を疑われたら、少し嫌な気分になると思うのだが、しげきは私との関係性を疑われてもまんざらでもなさそうにしている。
そんな彼の様子を見ると、どうしていつまでも私のことを見てくれないのだろうと、不思議にも、また悲しくも思う。
いつも通り「付き合ってない」と言い張る私たちのせいで、その場に少しつまらなそうな空気が流れてしまったため、代わりに少ししげきをいじって場を盛り上げることにした。
「てか、この人硬派ぶってるけど、実は意外とチャラかったりするんだよ」
私の言葉に、「そうなの?!」と周囲が食いつく。
するとしげきが慌てたように、
「いや、俺チャラくねえよ!なに言ってんだよ!」
と反論する。
その慌てる感じが面白くて、さらに話を盛って茶化そうとすると、
「だからチャラくねぇって!お前が一番よく知ってんだろ!!」
いつになく熱くなったしげきが強い調子で言い切った。
その瞬間、周囲が一瞬「え?」という雰囲気になり、ちらりと私を見る人もいた。
けれどおそらく最も動揺したのは私自身だろう。
“ 一番 ”。しげきの中で、私は“ 一番 ”、彼のことを知っている人間、つまり“ 一番 ”彼に近い存在であるらしい。
周囲の人からしたら「ほらやっぱりそういう関係なんじゃん」という感じだろうが、一瞬にして思考が止まったようになった私は、今になって必死に「そういう意味じゃない!」と弁解するしげきをぼんやりと見ていた。
しげきにとって私は確実に、付き合っている相手ではない。けれど、一番自分の近くにいて、一番わかってくれている相手ではある。
きっとしげきにとっての私は、「一番仲の良い女友達」、そういう認識なのだ。
この言葉は一番最初に告白したときの断り文句として、すでに聞いたものだ。けれど、あの時から私たちは何度もぶつかったり、相手の顔を見たくないほどの喧嘩も何度もしてきた。
そうした嫌な関係性も経た上で、しげきはまだ私を「一番」の存在として考えてくれている。
やっぱり私たちは仲が良いんだ。
周囲の喧騒をよそに、そんなことをしみじみと感じることができたのだった。
つづく(41話:ただの後輩)
幹部間での話し合いが一通り終わったことで、余裕が出たのかもしれません。少し落ち着いて、部活外でのしげきとの関係性を考えるようになりました。
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どのくらい一途かというと、週末ななおに会いに来るために新幹線の回数券を買ってくれているくらいです。(現在は、東京―京都間での遠距離恋愛をしています)
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