こんにちは、ななおです。
前回はこちら、34話:家族会議から。
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大切なもの
それからしばらくは、亮太のこともキャバクラのことも忘れて部活のことばかりを考えるようにしていた。
そのころ私は、部活内で考えるべきことがたくさんあった。
「りり子の仕事にミスが多すぎる」
最初は、さやかのこんな愚痴から始まった。
確かに、りり子のミスは私の目からみても看過できないものだった。だから私は3人でミーティングを開こうと持ちかけたのだが、なぜかさやかは幹部内でミーティングを開くことを嫌がった。おそらく、自分の不満をりり子に直接ぶつけることが怖かったのだろう。
仕方なく、私がりり子と2人で話をし、謝罪と今後への対策の言葉を聞くことができた。
しかしその同じ場で、今度はりり子がさやかの仕事ぶりに不満を抱えていることを知ってしまった。
私たちは幹部決めの時から、随分たくさんの話し合いを必要とした。私自身、かなりもやもやとしたものを抱え込んだが、主将の座を取り合う形になったりり子とさやかも、なにかしらのわだかまりを抱き続けていたのかもしれない。
いずれにしても、夏の終わりに始まった私たちの幹部代は、秋ごろにはすでに歯車がかみ合わなくなり、りり子とさやかは大切なことを直接話すことを避けるようになっていた。
そんな二人の間を取り持てるのは自分だけだと感じていたし、実際私がするべきことは、自分の好きな剣道部という居場所のためにも、できることを精一杯やることだけだった。
「やばいなぁ、合格率30%でしょ。なんで四段からこんなに難しくなるわけ」
稽古後に、しげきと二人で剣道形の自主練をしながら、愚痴をこぼした。
幹部内での揉め事以外に、11月末にある4段審査のことも考えなくてはいけなかった。
「まぁなぁ。最悪、今回落ちても2月も7月もあるからな」
そういって私から小太刀を受け取ると、しげきはもう一度やろうと目で催促する。
「なにそれ、今回は落ちるの前提みたいなの、やめてくれない」
9歩の間合いに距離を取ったしげきを目を細めて軽く睨みながら言うと、
「ごめんごめん、俺も受かるか分かんないし」
少し焦ったように謝る。そして、
「じゃあ、小太刀、三本目をもう一回」
仕切り直すように真面目な顔をする。
部活用の顔をしたしげきの喉元に剣先を向けながら大きく足を踏み出し、三歩目と同時にしげきの頭に木刀を振り下ろす。カスッという乾いた音がして右方向に木刀が受け流されるが、そのまま今度は左に返してしげきの胴を狙う。「とうっ」というしげきの声が響き、右肘と木刀の柄を押さえつけられ、身動きが取れなくなる。右腕の中心にしげきの手のひらの感触を感じながら、一気に距離が縮まった明るい茶色の瞳を見つめ返す。そのまま抑え込まれるように3歩後ろに下がると、しげきが残心を取り、目線を切らさないまま、ゆっくりと下がって間合いを取り直す。
「とりあえず、出来てはいるんじゃね?」
構えをほどいたしげきが、ほっとしたような微笑みを浮かべながら言う。
「うん、まぁ、形にはなってると思う」
そう言いながら、さり気なく右肘に手を当てる。
ときめくわけでも喜びで満たされるわけでもない。けれど、しげきが確かに私に触れていたというその名残が、道着の上から、私の肌の上にしっかりと残されている。その事実が、今の私にとっての唯一のよりどころだった。
そして結局、私の心が奥底から求めているのはやっぱりこの人なのだと、そう思った。
つづく(36話:別れ話)
この時は恋愛といったものを考えることが嫌で、ひたすら部活のことを考えて過ごしていました。
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私は冴えないアニメオタクでしたが、現在は一途で誠実な彼氏がいます。彼はイケメンの部類ですが、浮気の心配や不誠実さは皆無で、徹底的に一途な人です。
どのくらい一途かというと、週末ななおに会いに来るために新幹線の回数券を買ってくれているくらいです。(現在は、東京―京都間での遠距離恋愛をしています)
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