草食系男子との3年間㊲:亮太の真実 ~ななお篇~

 

こんにちは、ななおです。

前回はこちら、36話:別れ話から。

目次はこちらから。

 

亮太の真実

 

「その話は、誰か他の人にしたの?」

 

そう亮太に聞かれた私にできることは一つしかなかった。

 

「うん、一人。先輩にだけ、話した。前に言った、告白して振られた人」

 

そう言った私を見返す亮太の目は、こんなときにも決して私を責めることをしなかった。いつも通りの、温かで、穏やかな表情を保っていた。

そんな彼の前でどうしたらいいのかわからなくなって、ひとりでに口が、言葉を語りだしていた。

 

「先輩のことは、今は別に付き合いたいとかは思ってないけど、でも大切な人ではある。だから、うん、そういう意味で、自分の心の中にいる人、だと思う」

 

少しずつ、本音が漏れ始めていた。本当はこんなことまで言うつもりじゃなかった。キャバクラの話をして、変な女だと思われて終わりになるはずだった。それなのに、どこまでも優しい亮太の目が、私にこんなことを話させるのだ。

 

「・・・俺さ、好きな人を忘れられない気持ちは分かるって、前に言ったじゃん?」

 

唐突に亮太が切り出した。

 

「あ、うん、告白してくれた時に」

 

思わぬ言葉に一瞬目を見開いて亮太を見ると、私の目を見返しながら、彼は言った。

 

「あれ、二番目に付き合った彼女のことなんだよね」

 

「えっと・・・」

 

以前に話してくれた元カノの記憶をたぐり寄せる。

 

「あ、高校生の時に、付き合ってた子」

 

「うん、そう」

 

やはり亮太は淡々としていて、穏やかな表情は変わらない。

 

「実は、その子とは中学も同じで、俺、中学三年間、ずっと片思いしてた」

 

ぽつりぽつりと過去を話し出した亮太を、息を殺すようにしながら見つめた。

 

「それで、高校生になってやっと、付き合えたんだ。でも三か月くらいで振られて」

 

声のトーンが少し暗くなり、視線も下がる。

 

「今年の春、その子が東京に遊びにきたから、東京案内して、そこでもう一回告白して、でもまた、振られた」

 

亮太から目をそらすことができなかった。

知らなかった、そんなこと。これっぽっちも、そんなこと想像させなかった。

 

「今年の春・・・すごい最近だね」

 

ちょうど私がしげきに二回目の告白をして振られ、城田に合コンを持ち掛けた時期と同じだった。

 

「そうだね。今でも数か月に一回くらい、夢に見るよ」

 

そう言っておどけたふりをしようとしながら、亮太は初めてくしゃりと顔を歪めた。亮太の気持ちが、痛いほど伝わってきた。

 

それでも、彼女の話をする亮太の視線には、強い光が宿っていた。

まだ、好きなんじゃないか。

そう、その眼を見て確信した。

亮太はまだ、本気でその人のことが好きなのだ。

 

しばらくすると彼はふっと視線を弱め、

 

「その子も、剣道部で、学級委員とかやっててさ・・・」

 

はにかんでいるのか切ないのかよく分からない表情で言葉を紡いだ。

 

そうか。それで全ての疑問が解決したと思った。

だから、私だったんだ。

だから、あんなにも一生懸命だったんだ。

 

私が、彼女に似てたから。

 

でも。

私はその人の代わりになることはできないし、なるつもりもない。

今になってもそんなにもその人のことが好きならば、その人だけを見ればいい。

その人本人に全てをぶつけるしかないのだ。

 

「いつかまた、告白してみたら?」

 

そういうと彼はすぐに首を横に振り、きっぱりと言った。

 

「いや、もうしない。もう無理だ」

 

ならばどうして、その子の面影を探して歩くのだろう。

諦めるならはっきり諦めればいい。でも、諦められずに身代わりを探すくらいなら、とことんまでその人を想えばいい。

 

「私は、諦めないと思う」

 

亮太に言っているのか、自分自身に言っているのか、自分でももう分からなかった。

「付き合いたいとは思わない」というさっきの言葉と矛盾していたけれど、構わなかった。

 

結局、私も亮太も、本気で好きだった人を忘れられなかったのだ。それなのに忘れようとして同じような時期に新しい相手を探して、偶然出会って。だけど2人そろって、自分の心を誤魔化しきれなくなっただけのことだ。

私と亮太は、一緒だ。同志だ。

 

「だから、亮太もいつかその人と幸せになれる日が来ればいいと思う」

 

彼はその言葉には答えなかった。

ただ、少しの間をおいてから小さく笑いながら言った。

 

「俺、この話したの人生で3人目だ」

 

「野球部の人にも言ってないの?城田にも?」

 

もう一度彼は首を横に振った。

 

「こんな話なかなかしないよ。なんで俺、今言っちゃったんだろう」

 

不思議そうな顔をしながらも、落ち着いた様子で真っ直ぐに私を見た。

向けられたまなざしをそのまま見返しながら、その時初めて、亮太と分かり合えた気がした。

 

 

「俺さ、今まで別れた子の連絡先は完全に消してたんだけど、今回はそういうことは、したくない。何かあったら、連絡取れるくらいのスタンスでいたい」

 

駅までの帰り道で亮太が切り出した。

 

「そうだね、私もそう思う」

 

私たちの気持ちが通じ合ったことを感じたのは、私だけではなかったようだ。

最後の最後でお互いのことを分かり合えたことが、純粋に、本当に嬉しかった。

 

「なんか色々、勉強になった。俺も本音を話せて良かった」

 

改札の前で向かい合った亮太は、すっきりとした笑顔を見せた。

そして、きっと私も同じような顔をしていたのだろう。

 

「私も本当のこと話せて良かったよ、ありがとう」

 

「それじゃ、また」

 

「うん、それじゃ」

 

また明日、とでも言いそうなくらいに軽く手を振り合うと、私は後ろを振り返ることもなく、軽い足取りでホームへと向かう階段を下りて行った。

 

つづく

 

これで亮太とのお話は終わりです。SNS上でつながっているのでたまに近況を知ったり知られたりはしますが、お互いに関わりを持つことはしていません。

 

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