草食系男子との3年間㊼:男の眼 ~ななお篇~

 

こんにちは、ななおです。

前回はこちら、46話:急激な恋心から。

目次はこちらから。

 

男の眼

 

11月の二週目ごろ、授業が終わったあとにそのままご飯を食べに出かけた。

マサトが美味しいとすすめてくれた串カツの店に入る。私を奥の席に座らせたあと、マサトは「油の匂いがつくといけないから」と言って、私の上着の上に自分の上着を重ねてハンガーにかけてくれた。

そんな気遣いを、なんでもないことのようにさらりとこなしてしまうマサトがかっこよかった。

 

お酒がすすむと私もマサトも饒舌になり、マサトはしきりに私の恋愛話を聞きたがるようになった。その時のマサトは授業のあとに真面目な話をする知的な雰囲気とは違って、ノリの良い面白いお兄ちゃんという雰囲気だった。

彼氏はいないのかと聞かれたので元カレである亮太の話を少しすると、急に勢いづいたように亮太はどんな人だったのか、どんなところが良かったのか、どうして別れてしまったのか、そんなことを休むことなく聞いてきた。そんなマサトの様子に思わず笑いながら

 

「すぐに別れた人だし、そんなに聞いても面白いことないよ」

 

と言うと、

 

「いや~やっぱ気になるじゃん、その人に負けてたらどうしようとかさ」

 

またもやさらりとそう言ったかと思うと、何てことはないという顔をしておつまみのキャベツに手を伸ばす。

きっとマサトは女性経験が豊富なのだ。

自分では「そんなことはない」などと言って誤魔化していたけれど、少しも照れたそぶりも見せずにさらりと女性を褒めたり、知性を見せたかと思うと今度は上手に甘えて母性本能をくすぐってみたりと、女性をその気にさせることがとても上手かった。

そんなマサトの様子に手慣れてるなぁと感心する一方で、悪い気はしないことも確かだった。

なによりマサトの側にいると、自分が心だけではなく肉体を持った一人の女だということを強く意識させられるような気がした。それは裏を返せば、私がいつもマサトのことを熱量や質量を持った物理的な男性として感じ取っていたということだった。

本当に私は、男性としてのマサトにとてつもなく興味を抱き、惹かれていたのだ。

 

「じゃあさ、最近はどうなの?恋してないの?」

 

一息ついたころ、仕切り直すように、手元にあるおしぼりを指先で弄びながら上目遣い気味に私を見ながら言った。お酒のせいか、長いまつ毛に縁どられた大きな眼はわずかに濡れていて、鮮やかな白目の真ん中に据え置かれた黒目には、宝石のような艶やかな光がともっていた。

その眼の光は一瞬にして私をマサトの虜にした。

私はその時初めて、こんなにも色気のある男性が存在するのだということを思い知ったのだった。

 

「最近…は、恋はしてないかなぁ。好きだったけど振られちゃったとか、そのくらい」

 

さり気なく妖しいきらめきを放つ眼から視線をそらしながら、脳の端でしげきのことを思い出す。言いながら、今しげきの話をするべきではなかったかもしれない、そんなこともちらりと思った。

予想通り、私の言葉を聞いて予想外という顔をしたマサトの黒目にともっていた光が、一瞬にしてすぅっと消える。

 

「告白したの?うちの大学の人?」

 

「うん、そうそう、でも随分前のことだし、最近はなにもないよ」

 

やはりしげきに未練がないとは言い切れないが、それでも嘘はついていない。最後にしげきをデートに誘ったのは半年前のことだし、その後は部活関係でしか接点はない。

 

「ふ~ん、なんて人?教えてよ」

 

先ほどの色気とは打って変わってやんちゃな少年のような表情を浮かべながら携帯を取り出すマサトを慌てて止めようとすると、「別にいいじゃん、同じ大学の人と友達になるだけだからさ」と言われてしまい、それを聞くとなんだかそんな気もしてきてしまう。

 

「へーこの人か、あんまりSNS更新してないね」

 

結局しげきのページに辿りついたマサトは小首をかしげながらタイムラインを眺める。しげきの写真をマサトが見ているという状況に気恥ずかしさを覚えた私が、「もういいじゃん、携帯やめよ」というと、マサトは

 

「共通の友人何人かいるし、友達申請しちゃおっかな」

 

そう言って、悪いことを思いついたときのような不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

結局、そのままなにもせずに携帯を閉じたマサトと一緒にカラオケに行った。私とマサトは歌の趣味が合った。そしてマサトは、密室に女性と2人きりでいても、急に距離をつめてきて不愉快な思いをさせるなんて野暮なことはしないくらいには大人だった。

帰りはそれぞれ真逆の電車で、違うホームだった。帰宅ラッシュの混雑した駅のコンコースは、ほんの少し立ち止まるだけで人混みに流されそうになる。仕方なく半身になって人の流れをやりすごしながら振り返り、「それじゃ私は向こうだから」と言うと、

 

「今日はありがとね!」

 

と、マサトが応じた。マサトのよく通る声と明るい笑顔が私の世界を覆い、私は人混みの不愉快さにも負けずに頬が緩む自分を感じたのだった。

 

つづく(48話:綱渡り

 

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