草食系男子との3年間⑧:夏祭り ~ななお篇~

こんにちは、ななおです。

前回の話はこちら(7話:デートに誘われた日)から。

目次はこちらから。

今回は8話です、どうぞ。

 

夏祭り

 

しげきが指定した最寄り駅で待ち合わせると、「バスに乗って移動する」というのでバス停に向う。

 

すると目当ての場所に行くバスがなく、慌てて調べてみると、そもそも最寄り駅が間違っていたことが判明した。

 

「ごめんっ俺のミスだった!」

 

まさに「てへぺろ」とでも言うような照れ隠しの笑みを浮かべるしげきを、私は冷めた表情で見返した。

 

1度目は「お姉さん、剣道好きですか?」のKY発言、2度目は上下真っ黄色のアロハシャツ、3度目は待ち合わせの駅を間違えるという失態。

 

3度目にもなると、慣れてくるどころか、「いい加減にしろよ」という気持ちがむくむくと湧き上がりそうになる。

 

しかし、それもこちらが惚れてしまった人間が相手だと、「仕方ない。ちょっと間違えてしまっただけなんだろう」という気になってしまうのが怖い所だ。

 

 

 

どうにかサンバの会場に着くとすでに賑やかな音楽が流れており、道路脇にはたくさんの露店も並んでいる。浴衣姿の人もちらほらいて、夏祭りの雰囲気に徐々に興奮が湧き上がってくる。

 

2人で露店で飲み物や焼き鳥を買い、しげきは生ビールが旨いといって早々にご機嫌になった。

 

打楽器の音が大きくなりサンバの行列が近づいてくると、道路脇の人々が我先にと最前列に向い、カメラを構える。

 

踊り子の女性たちが引き締まった手足を出して、明るい笑顔で軽やかにステップを踏む。色とりどりの羽や衣装がキラキラと輝きながら揺れ動き、一気に南国の雰囲気に飲み込まれる。打楽器のリズムがさらに軽快になる。

 

そんな楽しい雰囲気にのまれ、しげきもそして私も、思わず大きな歓声を上げながらリズムに合わせて体を動かした。

 

特にシマさんの出演の時には一層盛り上がって声援を送り、そんな私たち二人に気が付いたシマさんが、大きな身振りで楽器を演奏しながら笑顔を向けてくれる。

 

楽しくて楽しくて、思わずシマさんのサンバの列を追いかけて走っていた。私たち二人は子供のようにはしゃいでいた。

 

 

 

「楽しかったね~」

 

「いや~盛り上がった!」

 

サンバがひと段落すると、興奮冷めやらぬまましげきと感想を口にし合う。

 

「あれっ?!」

 

その時私は一人の中年男性と目が合った。

 

「あれっ」

 

その男性も私を見返して戸惑ったような表情を見せる。

 

「ん?どうした?」

 

しげきが聞く。

 

「あの人、高校の時の先生だ!」

 

「え、まじで?」

 

「そう!先生、お久しぶりです!」

 

そう言ってテンションが上がった状態のまま先生の元へ駆け寄る。しげきも訳も分からず私の後についてくる。

 

先生は毎年このお祭りを見に来ているそうで、今年もまた、ふらっと見に来ていたのだそうだ。そんな話をしていると、

 

「彼氏?」

 

ふとしげきの方を向いて先生が言った。

 

「いや、先輩です!」

 

きっぱりと答えたあとにちらっとしげきを見ると、しげきは頬にわずかに笑みを浮かべ、「まんざらでもない」という表情をしていた。

 

「先輩?あ、そう」

 

先生はそれだけ言い、私たちとはそこで別れた。

 

 

先生と別れたあとも、「彼氏?」と聞かれたことがなんとなく脳裏に残っていて、お祭りという状況であることも合わせて、いつも以上に心がふわふわしていた。

 

そして彼氏と勘違いされた時のしげきの表情が全然嫌そうじゃなく、むしろ少し嬉しそうにも見えたことも、さらに私の心を浮き立たせていた。

 

徐々に日が落ちていき、露店の明かりがはっきりとしてくる。

 

そして日が落ちて薄暗くなったあとの夏祭りは、サンバとは違う雰囲気になる。私としげきの2人だけの時間になるのだ。いわゆる夏祭りデートの雰囲気だ。

 

私たちは薄暗いすみっこに座って、たこ焼きや焼きそばを分け合って食べた。

 

「うわぁ、間接キスだ」

 

なんて最初はちょっとドキドキしたけれど、徐々にそんなことも気にならなくなった。一つのお箸で一つのものを分け合うことが、その時の私たちにはとても自然だった。

 

「たこ焼き、一口で食べてみてよ」

 

しげきが面白がって言う。

 

「え、なんで?熱いじゃん」

 

「うん、その、熱がってるとこ見たい」

 

「えぇ?やだよ、熱いの嫌だもーん」

 

そんな軽口をたたきながら、私たちはずっと笑顔でいた。楽しくて、ずっと笑いながらたこ焼きや焼きそばや、飲み物を分け合った。

 

どこからどう見ても私たちはただのカップルだった。

 

そしてその時の私は、次のステージへと続く扉が目の前に見えていることを確信していた。

 

つづく(9話:焦り

以上、夏祭りでした。この時は本当に、勝利を確信していました(笑)

もうもうイケイケでしたね。このあとどんでん返しがあるなど思ってもいませんでした・・・。

 

 

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