草食系男子との3年間⑮:最初の告白 ~ななお篇~

 

こんにちは、ななおです。

前回はこちら(14話:過去の話)。少しななおの過去の話をしました。

今回は前々回(13話:運命の日)の続き、由比ガ浜での初めての告白のシーンです^^

目次はこちらから。

 

最初の告白

 

由比ガ浜につくと、さらさらとした砂の感触が靴の裏全体に広がった。
私はヒールのないパンプスを履いていたから、靴の中に砂が入らないように気をつけながら歩いた。

 

日の沈んだ浜辺を少し進むと、少し離れた海の家から、賑やかな音楽とそれに合わせて盛り上がる大勢の若者の声がした。

 

「やっぱりちょっとチャラい人達もいるのかな」

 

ちらりとそんなことを思った時、しげきがさらりと言ってのけた。

 

「もし絡まれたら、俺、逃げるから」

 

そして私の返事も聞かず、さっさと私から離れて波打ち際の方へ歩いていった。

 

一人取り残された私は、すぐに彼の発言の真意に気が付き、カチンときた。

しげきが言いたかったのはつまり、

 

「もしチャラい人達に絡まれたら俺は逃げるから、俺に助けてもらえると思うなよ」

 

ということだ。そしてさっさと私から離れていったのは、

 

「女といると絡まれやすくなるから、できるだけ距離を置こう」

 

という心理の表れだろう。

 

そこまで気づいて一瞬頭に来たものの、その時の私は

 

「何かあったら、せめて警察くらいは呼んでくれるんだろうな!」

 

と心の中で的はずれな反論をしただけだった。

 

今から思えば、この時のしげきの発言は人間として最低だし、そもそも私に対する気持ちなんてこれっぽっちもないことを明確に示していた。

 

けれど当時の私は完全に盲目状態で、「しげきに告白する」という目的を達成することしか考えることができなかった。

 

だから、思わぬ発言にカチンときたものの、すぐに気を取り直し、砂浜に腰を降ろしているしげきの隣に座ったのだった。

 

 

 

賑やかな若者達から離れて安心したのか、しげきは座ったまま、黒い海を眺めていた。

日の沈んだ浜辺では、海は青ではなく黒い液体で、波間の水しぶきだけが白く見える。

 

「時間忘れるよな」

 

しばらく無言で海を見ていたあと、しげきがぽつりと言った。そうして、再び黙り込んで黒い海を見つめる。

その時のしげきは、本当に海しか見えていないようだった。少なくともその瞬間のしげきの世界に、私という存在が入り込む余地はほとんどなかった。

でも私の中では、しげきの存在がほぼすべての空間を占めていた。
頭の中も身体感覚も、全てが隣に座るしげきで埋めつくされていて、全身全霊でしげきの存在を感じていた。

「しげきに触れたい」

そんな強い気持ちが湧き上がり、心臓の音が全身に響き始める。

そして心臓の力強い鼓動に押し出されるように、

 

右手を伸ばして、しげきの左手に触れた。

 

ビクリと、しげきが全身で反応をする。

 

そんな反応を見ながら、ここでやめたら二度とチャンスは来ないと思った私は、そのまま両手でしげきの左手を包んだ。剣道をしているせいか、思ったよりも厚みがあって、がっしりとした男性の手だった。

さっきまでリラックスしていたしげきが、今は全身を強張らせているのが分かった。

けれど、それは今のしげきの世界を私が占めているという事実の裏返しだったから、嬉しくもあった。

 

「お前、俺のこと好きなの」

 

左手を硬く伸ばし、不自然に私から目をそらしながら、しげきは言った。

 

「うん」

 

この時、しげきとは逆に私はとてもリラックスしていて、微笑みすら浮かべていたと思う。

 

「そっか・・・いつから?」

 

「ん~最初からかな?最初から、いいなって思ってた」

 

「マジか、全然気づかなかった」

 

しげきのその言葉は嘘ではないようだったし、そんなに意外なことでもなかった。けれど、

 

「・・・俺さ、好きな人いるんだよね。だから、お前と付き合うことはできない」

 

としげきが言った瞬間、とても動揺した。

私としげきとの間に第三者が出てくるなんてことは、私の予想の中には全くなかった。「まさか」と思った。

 

「え、どこの人?大学?」

 

そう言いながら、そんなはずはないとも思っていた。
大学の中だったら、しげきに一番近しい女性は私のはずだから、学内に好きな人がいるのなら、私も勘付いているはずだった。

 

「や、バイト先の人」

 

そう言われて、「なるほど」と思った。
私の知らない場所でのことなら、私が気づかなくても仕方がない。けれど、そこまできちんとリサーチしておかなかった自分が悔しかった。

 

「そう。どんな人?」

 

なんとなくそのままにするのも悔しくて、さらに質問を重ねる。

 

「どんな人って・・・なんか、清楚なお嬢様みたいな雰囲気のある人でさ」

 

そう言うと、初めてしげきは嬉しそうな表情を見せた。

ついさっきまで私に手を握られて硬い表情しかしてなかったくせに、その女性の話をした瞬間、私が見たこともないような幸せそうな顔をした。

 

そんな横顔を見た瞬間、「かなわない」と思った。
私はまだ、彼にこんなに幸せそうな顔をさせたことがなかった。

 

けれどそれと同時に、「しげきは、とても表面的に彼女を好きになっている」ということも分かった。
そうでなかったら、「好きな人ってどんな人?」と言われ、「清楚なお嬢様のような雰囲気のある人」なんて、表層的な表現はしないはずだ。

 

しかしそんな分析をしたところで、今のしげきの気持ちを変えることができるわけでもなかった。

どんなに表面的な「好き」であっても、それがしげきにとっての現実なのだから、その「好き」の矛先を私が変えることはできなかった。

 

「そっか。しげきが幸せだっていうなら、私にとっても、それが一番嬉しいことだし」

 

そう言いながらも、両手で包んだ左手を離すことはできなかった。

しげきもそれ以上話そうとはしなかった。

 

再びしばらく無言でいたあと、

 

「これ、いや?」

 

握っている左手をみながら、しげきに聞いた。

 

「嫌ではないよ」

 

するとしげきはそう言って、そのまま私に手を握らせてくれた。

実際、さっきまでの強張った力みは消えていて、しげき自身、随分落ち着いてきているようだった。

そんなしげきに甘えて、彼のがっしりとした男性らしい手を、両手でしっかりと握りしめていた。この感触を忘れたくないと思った。

 

 

帰り道、2人で歩きながら、冗談めかしていった。

 

「その人に飽きたら、私のとこに来てもいいんだよ?」

 

するとしげきは困ったような笑みを浮かべながら言った。

 

「いや、それはだめでしょ。だって、お前それ、2番目ってことだよ。お前それでいいの?」

 

「いいよ。全然いい」

 

そう言いながら本当は、

「私のところに来たら、絶対後悔させない自信がある。

あなたがその女性を好きな気持ちよりも、そしておそらく、その女性があなたを思う気持ちよりも、私があなたを思う気持ちの方が全然強い。

だから、私と付き合ったら、絶対あなたは幸せになれる」

そう言いたかった。

けれどしげきは困ったように「だめだろ」というだけだった。

 

こうして私の最初の告白は、見事に砕け散ったのだった。

 

つづく(16話:絶望

 

以上、最初の告白でした。

前半はしげきの悪行暴露になりましたが(笑)彼の例の発言は今でも私たちの間ではネタとして残っております^^

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